【妊娠と結婚と毒親2】映画『深夜食堂』マスターが作る料理は、お腹よりも心を満たす優しさにあふれている
《オババ》私の姑、人類最強のディズニーオタク。妹の夫とは同級生
《叔母・勝江(仮名)》オババの妹、ヒステリー性障害を患う。優ちゃんの母親、娘を過保護に育て離したくない毒親。太郎くんとの結婚に大反対中。
《優ちゃん》叔母のひとり娘、39歳。婚活アプリで知り合った太郎と熱愛、過保護母に結婚の邪魔をされ、太郎と駆け落ち。妊娠が発覚。
《太郎》35歳。高校時代に親を亡くし、一人で農家を切り盛する勤労青年。
★ ★ ★
いきなり病室を飛び出したかと思ったら、太郎くん、しばらくしても帰ってきません。そして、夫(?)が急に消えても、優ちゃん、ぜんぜん動じません。
「太郎くんはどうしたのです」
白黒はっきりが信条のオババ、問い詰め口調で聞くと、なんと叔母が答えたんです。
「まあ、いいじゃない、姉さん。それぞれ、理由もあるでしょう」
いつのまに、そんな聞き分けの良い母親に変身したんだ。
セーラームーンの変身じゃないんだから。
月に向かって、くるくる星を散らして回転して、外面整えたんかい。
てか、そんな可愛いもんじゃなくて、どっちかいやぁドラゴンボール。
フリーザ様の変身。
と、個室のドアがノックされ、同時に看護師がてきぱきとした動作で入ってきました。
「じゃあ、優子さん、診察に行きましょうか」
「はい」
看護師が、「車椅子、使いましょうね」と、
優ちゃん、用意された車椅子に素直に乗り、変身した叔母が付き添い、病室を出て行きました。
私は帰ろうかと思いました。
「叔母さん、結婚に反対するのやめたみたいですね」
「そのようです」
「私たち、これで失礼したほうが」
「いや」
オババ、少し上の空の様子で、宙を見つめて、無言です。
歩幅を広げて立っている姿は『深夜食堂』のマスターみたく、
手を腰にあて、足を広げ、軽く仁王立ち。
ところで、 今朝、ブログを読んでいて、
『人はみな平等に歳をとるが、しだいに人生がおもしろくなる人と、不平不満だけが募る人がいる。両者の違いはいったい何か』
と、はなちゃん(id:hananekochang) さん、ブログにあげられてました。
作家曽野綾子氏の文章です。
なんだか、今の気分にどんぴしゃで、
だからブログを読むのやめられないんです。
こういう言葉に出会えてしまう。
ほんと、そうだね、曽野綾子さん、はなちゃんさん。
多くの人に・・・
人生がおもしろくなる人になってほしいと、私、思う。
じゃないと、不平不満で爆発されると、もう周囲は大迷惑で・・・
あの今、大騒ぎのアオリ運転男もさることながら、普通の人でも普通なりに、2つのコースが用意されているようで。
誰もが平等に歳をとっていくけど、取り方は平等じゃなく・・・
学生時代はあんなに可愛く、男性にもモテて、いわゆる勝ち組の結婚をした友人が、今では不平不満ばかり。
そんな中年をすぎた古い友人に出会うと悲しくなってしまう。
ついでに、疲れてしまう。
いつか、人は生きて来た年数と、これから先の年数が逆転することがあって、逆転した年月は、あっという間にすぎていく。
それは、30代よりも、40代よりも、年齢に比例して時は早くすぎ、
70代、80代になれば、さらに早いに違いない。
だからこそ、不平不満ばかりの人の愚痴を聞いていることが、面倒でもあります。
『深夜食堂』に多くの人が集まるのは、そして、このドラマにファンが多いのは、寡黙なマスターの心癒す料理と、それを作るマスターの優しさなんだろう。そうした愚痴を受け止め、静かに癒していく。
マスターの振る舞いをみていると、彼の過去が透けてみえます。
離婚したのかもしれない。あるいは、さらに悲しい過去があったのかもしれない。
いろいろあっての、その上の人に対する優しさ
みふけた (id:mifuketa) さんのブログみたいでもあって、
マスターは、大仰に自分の正しさを振り回すわけじゃない。
ただ、近くによって来た人に、平等に優しい。
こうした境地に至るマスターは尊い!
そんな人に私はなりたい。
なんてなこと、思ってる場合じゃなくて・・・
オババの仁王立ち、怖い!
不平不満じゃないよね。
ほんと怖いんですが。
太郎くん、なにも言わずに飛び出して、
1時間か、もう少し早かったでしょうか。
息咳って戻ってきました。
「すみません、急に飛び出して」
「どうした」
「急がなきゃって、思って。僕の子どもに申し訳ないから」
彼、手に持った封筒から書類を取り出して、オババに見せました。
婚姻届です。
「お母さんに優ちゃんとの結婚、許していただけるでしょうか」
「大丈夫じゃないかな」
「そうですか」
太郎くん、いきなり屈託のない太陽のような笑顔を浮かべました。
「勝江はいま、検査に付き添っています」
「はい。僕、行ってきます」
「ちょっと待って」
オババが呼び止めました。
「その婚姻届。いま見せるよりも、まず話したらどうでしょう」
「そうですか。確かに慌てすぎですね。そのほうがいいですね。直情的すぎたです、考えるより行動してしまって、ありがとうございます」
「それから話すときは優ちゃんが一緒のときにね」
「はい」
「じゃあ、書類は汚れると困るだろうから、私が持っておこう」
オババ、なんか様子が変です。
「すみません」
「さあ、行っらっしゃい。産婦人科の診察に向かったのは15分前くらいだから、まだ待合室で待っているかもしれません。超音波検査するようですよ。つまり、お腹のなかで心臓が動いている我が子を見るチャンスです」
「そうか」
太郎くん、はにかんだように髪をかき、嬉しそうに去っていきました。
姿が見えなくなると、突然。
オババ、表情を曇らせました。
「まずい! まずいぞ、アメリッシュ」
オババ、役所の封筒に入った書類を読むために、老眼鏡をかけています。
「やはりか。法律は変わっとらんな」
法律が、そう簡単に変わってたら、安倍総理が憲法改正とかで、何年も騒いでないわ! で、そ、それがなにか?
いや〜〜な、汗が出ています。
「なにかまずいことでも」
「結婚すると戸籍が変わる」
「そうですね」
「わからんか」
「いえ」
「戸籍じゃ、戸籍を取り寄せることになる」
はっとした。
叔母だ。
「気づいたか。必要なのは、戸籍抄本ではなく謄本となっている。謄本は全員のことがのっている」
「ま、まずい、まずいですね」
セーラームーンで変身した叔母。自分が離婚していることを知らない。
てことは、離婚を知ってしまうかもしれない。
「お義母さん」
「アメリッシュ」
「お義母さん」
「アメリッシュ」
「お義母さん」
「アメリッシュ」
私、顔色が変わったかも。
まさかの、ここに来ての大問題発生。
あの叔母に知らせず提出した叔父と叔母の離婚届。そこには私とオババが証人として記名している。
だから言ったじゃない。
この親戚、かかわってロクなことがないって、
夫だって言っていた。ほどほどにって。
しか〜〜し、あんたの母親ぞ!
アホ、アホだ私!
「ど、ど、どうします」
オババ、「一難さって、また、一難だ」と小さくつぶやいてから、決心したように宣言した。
「第3次臨界体制発動!」
「は!」
★ ★ ★
映画『深夜食堂』
主演:小林薫(マスター)
監督: 松岡錠司(東京タワー 〜オカンとボクと、時々、オトンの監督)
もともとはビッグコミックに連載された安倍夜郎氏の漫画で、のちにテレビドラマ化しました。
映画劇場版は2015年。『続・深夜劇場』は2016年公開。
どこか懐かしい雰囲気の新宿路地裏、小さな食堂を営むマスター。
本名も経歴も素性もいっさいが不明。
しかし、毎晩のように常連客が訪れて、小さな店内はいつも満員です。
マスターの料理は、昭和の味がする懐かしいもので・・・
その料理を食べに、行き場を失ったワケ有りの人たちが集まってきます。
私がブログで出会った多くの優しい人たちとの交流に似た、
ほっこりとした優しさに満ちた作品。
店の営業時間は午前0時から朝7時っていう、かなり興味深い時間帯で、
普通の人は、寝ています。
メニューは『豚汁定食、ビール、酒、焼酎』としか書かれてないですが、
マスターは料理できるものなら、どんなものでもつくってくれます。
マスターが作る土鍋のとろろご飯。むちゃくちゃ美味しそうです。