《オババ》私の姑、ディズニーオタク。婚活中の姪っ子が結婚詐欺にあったと誤解。
《叔母》ひとり娘をこよなく愛する優しすぎる叔母、娘に恋人ができてパニックのオババの妹。
《優ちゃん》叔母のひとり娘。39歳。婚活アプリで知り合った太郎と熱愛中。
《太郎》35歳。高校時代に親を亡くし、一人で農家を切り盛する中卒の勤労青年。
数日後、優ちゃんが自宅に訪ねてきました。
ところで、皆さまがご心配されていた、太郎くんのディズニーはじめて問題。
あの土曜日はディズニーランドで楽しんだそうです。
特に、最後のエレクトリカルパレード・ドリームライトに感動したらしく、
「オレ、こんな綺麗なもの見たの、生まれてはじめてだ」って喜び、ふたりでどちらともなく手を繋いでいたそうです。
太郎くんは日々の農作業で暑さには慣れており、激混み、激暑にまったく動じることない筋肉マン。
はじめてのディズニーを満喫したそう・・・、
ですが、やはり、叔母の反対が影をさしており、自ら話に行くと言っていると。でも優ちゃんが止めました。
優ちゃん、なんだか、少し成長しています。
で、あの日の・・・、ディズニーの午後、私たちは・・・。
優ちゃんを取り戻しに行くという叔母と、純粋に遊びに行きたいオババと、この場からダッシュで逃げるためなら、なんでもするぞという決意の私の間で、かなりの攻防戦があったわけで。
その結果が、なぜか、イッツ・ア・スモールワールド。
ここに来るまでの、血と汗とニアミスの恐怖を乗り越えた、世界はせまいであったわけです。
♬世界中 どこだって 笑いあり 涙あり
みんな それぞれ 助け合う 小さな世界
世界はせまい 世界は同じ
世界はまるい ただひとつ
って、お花畑な小舟に乗って漂うまでの、道のりの世界って、そりゃもう長く苦しく、ついでに暑くて、がありました。
ヘルマン・ヘッセのおじさんが、
『わが道を進む人は、誰でも英雄です』
なんて名言を仰ってますが、アメリッシュ、これにはちょっと言わせてもらいたいことがあります。
だってもう、私のまわり、わが道を進む人ばっかですから。
オババはディズニー攻略に燃え。
叔母は娘を探して三千里だし。
英雄だらけです。
英雄がそんな多くていいですか? って話です。
英雄の大安売り、もう、一族郎党すべてバラエティ豊かな英雄で取り揃えてますから。
なんならギネス登録も受けつけOK。
ディズニーを制覇する唯一無二にして普遍のオババとか
娘を鉄壁の防御で守りきる世界に誇る勝江とか
素直を通りこして、妖精になった優ちゃんとか
そして、翻弄されること国民栄誉賞もののアメリッシュも、忘れられない貢献度です。
ところで、ディズニーランドで迷子のアナウンスって聞いたことありますか?
ないんですね、ディズニーランド。
パーク内の雰囲気を壊さないという配慮で、そうした現実的なアナウンスをしない。迷子の場合、神対応のキャストがいて、迷子の手を引いて親を探すんであります。それで見つからなければ迷子センター。
迷子センターの情報は、パーク内にいる大勢のキャストと共有しており、すみやかに親を発見するシステムです。
で、叔母です。
こうした普段は優しく繊細な人がパニクると、もうグチグチがすごいってこと、発見してしまいました。別にそんな発見したくなかったですよ。
でも、コロンブスの新大陸発見かってほどの、大グチグチの新発見。
もう、とまらねぇーーー! たらないの。
「優ちゃんのスマホが応答しないの」って、
「迷子センターはどこなの」って、ありえない、わが道。
「優ちゃんはデート中で、迷子じゃないから。それにどう説明するのよ。40近い大人が迷子って、むちゃなことで私の愛するディズニーに迷惑かけない。それで、最初はどのアトラクション行こうか」って、オババもわが道で。
「アメリッシュさん。なんとかしなさい! 元はといえば、あなたが焚き付けて」って、そんな、こっち向かないで。
「この暑さで、こんな大勢の人。あの子、気分が悪くなったら、どう責任をとってくれるの」
「救護センターもありますから」
「じゃあ、そこへ」
嘘でしょ。
二人が行くはずないでしょうがって、そう思いながら、救護センターへ。
で、もし気分の悪くなった過保護がいたら連絡してくれと、そういう手配をしてから、残った三人であります。
「今日は暑いからホーンテッドマンションから攻めるわよ、アメ!」
今更の、ホーンテッドマンションかい。
もう、私たちの存在自体がすでにホーンテッドでしょうが。
それで、行ったわけですよ。ホーンテッドマンションの行列めがけて。
叔母はディズニーなんて興味もないから、なんでこんな行列に並ぶのとか、暑いとか、人が多すぎるとか、そういう愚痴の間に思い出すんです。優ちゃんが困っているんじゃないかって。
ところで、あるんですね。
アホのような奇跡が。というより、災難が。
人混みのなか、優ちゃんと太郎くんが歩いてきたんですよ。
なんという偶然。なんという間の悪さ。
と、いつものように、ふらふらした優ちゃん、ホーンテッドマンション、まっしぐらかと思ったら、なぜか、急に方向転換して、なにかの屋台に向かった。
で、私、叔母の目から二人を隠すのにカバディ。
カバディって競技ご存知ですか?
インドの国技で、攻撃者は「カバディ、カバディ、カバディ……」と奇声を発っしながら攻撃する、あの真面目かよっていう競技。
両手を広げ、すすり足で攻撃を制して、小刻みに横っ飛びジャンプしながら、防御するんであります。
私、二人を発見した瞬間、叔母の視線から隠すため、必死のカバディ。
でもって、屋台から、二人がホーンテッドマンションに来そうな確率かなり高め。
「あの暑いからイッツ・ア・スモールワールドに行きませんか」って言ったわけ。
暑いからホーンテッドマンションという言葉を忘れて、すぐにチっと思ってももう遅い。
「それは」というオババを遮りながら目で合図したんですよ。
全身カバディで叔母を遮りながら。
オババ、はっとして。
「そ、そうね。こういうときはイッツ・ア・スモールワールド」
ま、それで、小舟にゆられて。
♬世界中、誰だって
もうここで、骨をうずめるかって覚悟でイッツ・ア・スモールワールド!
そんなディズニーライフを全うして自宅に戻った私。
その夜は気絶するように眠りました。
さて、今の叔母になにを話しても無駄なようです。
オオイヌノフグリ(id:ooinunohuguri)さんの仰る、孫が欲しいとか考えられない状態なんです。
ただただ手元から離したくないんです。
優ちゃんの結婚を心配していたのに、いざ、それが現実味をおびると理性がふっとんでます。なにせ、わが道をいく英雄ですから。誰にも渡さないという決意、わが道です。
ずっと籠(カゴ)の鳥にしておきたい。
優ちゃんは塔の上のラプンツェル。
さて、冒頭に戻ります。
優ちゃんが訪ねてきたんです。
太郎くん、叔母さんが会おうとしないので、手紙を書いたそうです。
「ママ、読まずに破り棄てようとしたの。だから、必死にとってきて、アメリッシュ姉さまにお願いが」
「ええ」
「伯母さまに、この手紙を見せてくださらない。それで、ママに話して欲しいって説得してもらえませんか。ママったら、太郎くんのこと全く聞いてくれなくて」
太郎くんからの手紙を受け取りました。重いです。
to be continued