《オババ》私の姑、人類最強のディズニーオタク。妹の夫とは同級生
《叔母・勝江(仮名)》オババの妹、ヒステリー性障害を患う。優ちゃんの母親、娘を過保護に育て離したくない毒親。太郎くんとの結婚に大反対中。
《優ちゃん》叔母のひとり娘、39歳。婚活アプリで知り合った太郎と熱愛、過保護母に結婚の邪魔をされ、太郎と駆け落ち。
《太郎》35歳。高校時代に親を亡くし、一人で農家を切り盛する勤労青年。
え? ええええええ?
「おめでたです。最後の月経はいつでしたか?」
って、医師の問いに、優ちゃん、
「月経ってなんですか?」って。
ものすごく素直な表情で、例えば、中学校の先生が『素直な子』って通知表に書いておくような様子であって、
その他大勢は、えええ? って言葉しか出なかった。
もう、月経ってなんですか、てな破壊力マックスの質問が、39歳の口から出てきたとき、ど、どういう反応したらいい。
医師は、その問われた意味を測りかね、
私とオババは、呆れ果て、
叔母はきっとまだ妊娠を受け止められなくて、
そして、太郎くんは大きく口を開けていました。
この微妙な状況。
叔母は結婚を許してないし、で、二人はまだ、結婚してないし、
結婚・・・、してないよね?
でもって、私、優ちゃんが好きです・・・、たぶん。
私の高価なティーカップを割ってくれたときでさえも好きだったし
どんなときも・・・、たぶん。
すぐ背後でつまづいて転んでるとか、
プルトップ指にはめて取れなくなるとか、
鉛筆1ダース、全部、最後まで削り切っちゃうとか、
4秒考えただけで、4個もディスれてしまう
てことは、単純計算で1秒につき1個なら1時間で60個・・・、
いやいやいや。
私は優ちゃんが好きです! キリッ・・・
グーグル先生によると、因果性って言葉があるそう。
原因が結果になるってことの意味とか、簡単すぎて説明になってないけど。
つまり、太郎くんと◯◯◯したことが原因で、
妊娠したのが結果で、そこに因果性があるってことだけど。
しかし、この日、6月末の白い病室で、
まだまだ梅雨が残る暗い雲に押し込まれた日に、
その因果性に納得できない家族、全員で、タソガレてたんであります。
優ちゃんと妊娠という結果。ずえったい、結びつかない!
たぶん、中学生の娘がいたとして、その子が妊娠したと聞かされて、家族が納得できないっちゅうか、それに似てるってちゅうか、因果性を疑うちゅうか。
だって、優ちゃんだから。
そして、最初に動いたのは叔母でした。
「月経ってなんですか?」って聞いてからの、ほぼ3分の空白。
案外と3分の無言空間って長く感じるもので、
忙しい医師がしびれを切らして、なにか言おうとした瞬間です。
「優ちゃん」
静かな、過去に私が知っていた優しい叔母の声がきこえました。
「なに、ママ」
「毎月ね、生理があったでしょ。あなたの周期からいえば、ママの知っている限りじゃあ、4月10日だったわよね。それから、生理があった?」
優ちゃん、以前よりすっかり日焼けして引き締まった顔になっていましたが、動作は同じで、ちょっと首を傾げて、
「ううん? なかったかな」
「太郎くん、あなた、気づかなかったか?」
オババ、そこ太郎くんに聞くこと?
「え、あの、僕がですか」
太郎、顔を少し赤くしています。
筋肉質の体で初々しいです。
ま、知らないよな。
「なかったって思います!」
断言かい、知ってんのかい。
優ちゃん、女性として脇が甘い! 甘すぎる!
「そうですか」
医師が我慢強く答えを求めています。
「では、4月10日が最終だとすれば、おそらく、そろそろ4ヶ月に入ってますな。超音波エコーで調べましょう。手配しますが、それでよろしいですか? ここで出産されるということであれば、救急ではなく産婦人科に」
とまあ、医師はテキパキと指示して部屋を出て行きました。
4ヶ月、妊娠
空中に、その言葉が大文字で漂って、目に見えるくらいの衝撃で、
その大文字をひっつかむように叔母さん、にっこりしました。
「太郎さん」
はじめて太郎くんの顔を見て、品良く微笑んだんであります。
「あなたのお仕事も大変でしょうから、病院のチェックが終わったら、里帰りさせてもらいますね」
数分前まで誘拐路線が、いきなりの軌道修正。
で、里帰りかい。
でもって、優ちゃん、まだ正式に結婚してないんじゃなかった?
太郎くんは中卒で自分に学がないとか前に言っけど、けっして愚かな男ではない。両親を失って高校をやめざるおえず、自らの道を切り開いてきた逞しさと賢さをもっています。
だから、優ちゃんの傍にきて、
「ありがとう」と頭を下げたのです。
「私も、ありがとう」って優ちゃん。
「言葉もない」って太郎くん。
「私も」って優ちゃん。
「本当にうれしい」って感極まって太郎くん。
「私も」って優ちゃん。
時折、私は人間の不可解な行動に驚きます。
人は誰しも少なからずレッテルをはります。
というのも、レッテルなしでニュートラルに人と接すると不安になるからです。
この人は、女性で結婚している、あるいはしてない。
子供がいる、いない。
若い若くないからはじまり、さらにレッテルは詳細に細分化されて、はじめて納得していく。
そうした無意識のレッテルなしに付き合うことができないのです。
ヒステリックな人は常にヒステリックであって、そこに知性の片鱗を見つけることなどできないって。
叔母にレッテルをはっちまった私は、彼女の次の行動に驚いてしまうんであって。
エンドレスな、それなりに愛らしい二人の会話に切り込んだ叔母は、
「まあ、太郎さん。お礼をいうのはこちらですから」
おいおいおいって。
なんなの、この平和な状態は姑と義理の息子とその娘は。
でもって、太郎くん、もう一度、今度は叔母に頭を下げて、それから・・・
「優ちゃん」
「太郎くん」
お互いに名前を呼んでから、しばらく見つめあって、
・・・
ふいに病室から飛び出して行きました。
ど、どうした、太郎。叔母の急変が怖かったか。
私とオババ、カヤの外で黙って推移を見つめているだけで。
「太郎くん、どこへ行ったんでしょうか」
「どこだろうか」
と、二人で間抜けな会話をしてました。
なのに、当事者である優ちゃんも叔母も一向に気にしてない。
私、ついていけてない。
この状態についてけない。
だって太郎よ。
大丈夫なのか、この大事なときに飛び出して。
なぜって、叔母、究極の毒親だと思う。たぶん、優ちゃんに自分の敷いたレールに乗せるためなら、なんでもすると思うけど。
孫も巻き込まれっぞ、たぶん。
チェコで制作された『バーレスク』という映画を見たことあるかい?
学校校長である母親が、太って体型に劣等感しかない娘を、親のカゴの中に入れて、そのカゴに窒息しそうになった娘が、ストリッパーになるって話だよ。
太郎よ、優ちゃんはそんなふうに育っているんだから。
to be continued
チェコ発映画『バーレスク』
アマゾンプライムで見ることができる映画に、チェコで制作された『バーレスク』という映画があります。
小学生の教師が、ストリッパーになるって、ぶっ飛んだ内容で、彼女の母親は同じ学校の校長先生。
娘を自分の敷いた真面目レールの上を歩かせようと、そりゃもう服装から、態度まで、すべて教えて過保護にして。娘を押し殺して育てているんです。
校長である母、正義です。自分の子育てに自信いっぱいです。
でもって、娘は息が詰まっています。
彼女、自分の容姿に全く自信がなく、まあ、いわばぽっちゃり系で、モデル体型とは真逆。
で、このぽっちゃり先生、クラブで美しい肢体を見せてダンスするバーレスク女性に憧れちゃうんであります。
挙げ句の果てに、ストリッパーとして舞台に立ってしまったんです。
こんな振る舞いを、生徒の親も町の人々も許すはずがありません。
まあ、自分の子を教える教師が服を脱いで踊ってるなんて、そりゃ、親が許すはずもないですが。
ネタバレ、すみません。良い映画で、チェコ発の大人女子向けヒューマンドラマです。最後まで飽きずに見ました。
一つ難点は字幕が見辛いこと、言語も英語じゃないので、ますますわかりづらいんですが、それでもよかったです。
実は、一昨日のブログで上映中の映画7選をブログにあげたんですが、
結月 (id:yudukisakuta)さんからタイプ8の要望がありました。
タイプ8:ダメダメ女だけど、絡み合いたい人
で、タイプ8におすすめしたい映画が『バーレスク』チェコ版なんです。
ハリウッドで制作されたミュージカル最高峰の呼び名も高い『バーレスク』じゃないです。チェコ映画です。
バーレスクの語源と意味
有名な作品を真似ることによって、そのスタイルや精神を誇張したり歪曲したりすることをバーレスクと言います。
語源はイタリア語burlescoであり、冗談、嘲りからきています。
17世紀後半から使われており、パロディ、カリカルチュアの意もあります。
アメリカではバラエティショー形式の見世物をバーレスクと呼んでいましたが、時代が下がり後期のアメリカンバーレスクではエロティックなコメディや女性ストリップに変化しています。