《オババ》私の姑、人類最強のディズニーオタク。妹の夫とは同級生
《叔母・勝江(仮名)》オババの妹、ヒステリー性障害を患う。娘を溺愛し結婚に反対
《叔母の夫》米国に本拠地を置く会社CEO。自宅も会社も電話がつながらず所在不明
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いたたまれない、ムッチャいたたまれないぞ。
姉妹ケンカって、微妙な空気がながれて、キッチンがキッチンじゃなく、冷凍庫に入ってるみたいで。
叔母は弱り切った、シワくちゃな老人に見え、
かたや、オババ、強烈な怒りをうちに秘めて身動きもせず、
アメリッシュ、目だけキョロキョロしてます。
誰も飲み物欲しがらないし。
で、緊張して座ってたから腰が痛くなってるし。
というところで、オババが静かに話し出しました。
「もう遠い記憶ですがね。あの男が来ましたよ。青醒めた顔をして、しょぼくれてね。
『委員長、まずったよ』って
『なにをしでかしたのよ』
私が聞くとね。
『俺、酔払ってて、まったく覚えがないんだが』
『どうせ、けがわらしい話でしょ』
『子どもができた・・・、ようだ』
びっくりしましたよ。遊んでるとは思ってましたが、まさかね。
そんなことをって。
『相手は、ご商売のそういう女なの?』って聞きました。
あの当時は、今の時代とは違いますから。
普通の娘が結婚前に妊娠なんて、どんな誹謗中傷(ひぼうちゅうしょう)をされるかわかりません。
そういう女性は、キズモノなんて言われた時代です。
処女じゃなきゃ嫁にいけないって、それが常識でした。
『それで、お相手は?』
あの男、珍しく言い淀んでね。下を向いてました。
『お相手は誰ですか?』
『勝っちゃんだよ』
『勝っちゃん?』
勝っちゃんって名前が入ってこなくて。もう一度聞き直しました。
『勝っちゃん、勝っちゃんて、私の妹?』
『ああ』
瞬間的に右手が動いて、強烈な一発を見舞っときました。
平手じゃなくて、グーパンチです。
親が聞いたら泣くと思ってね、先にやっといたんです。
それだけです。それで終わり、あの男は同級生でしたが、それだけです」
オババァ〜〜。
「今は女性にとっていい時代なんでしょう・・・。そういうことで、キズモノとは言われませんから。それにしても、私も人を殴ったのは、はじめてで、まあ、拳が痛かったこと。もう2度と嫌ですよ。こっちが痛いです」
叔母、うつむいてます。
私も顔を上げるのが怖くなって、テーブルの木目を数えてて、
ああ、こういうこと過去にあったなって。
学生時代以来だって、先生との面談、机見て乗り切った、あの時と同じだって。
「さあ、昔は昔、今は今。あの男、また、しでかしたんですよ。アホにも程があります」
「何したんでしょうか」
「急に日本に来て、それで、離婚ってのは奇妙でしょう、この10年、何も言わずに向こうで生活してたんですから。勝江、なにか聞いてないの?」
「なんで、昔のこと怒らないのよ」
叔母、質問には答えずに、また蒸し返して、声のトーンも高いです。私以上に視線が定まってません。
「面倒な女ね、あんたも。昔って言ったじゃない。で? なにか聞いてるの」
「そ、そっちは、なにも聞いてないわ」
「面倒な上に役立たずか。いい加減、成長するってできないの」
「姉さんだって、そうやってズケズケいうの。酷いじゃない」
「私のズケズケは誇りを持ったズケズケです。あんたのは誇りがない」
「な、なんですって!」
待った、待った! タオル、タオル。リングにタオル投げて!
「叔母さん、離婚届はどこに送るんですか?」って聞いといた。
「・・・離婚届」
叔母、ぼんやりと口にして、立ち上がろうとして中腰になり、再び椅子にストンと落ちました。
「立つこともできんようになったか」ってオババ。
先ほどから言葉に棘がある。きっと怒ってるんだろうな、すごく。
「できますよ」って言いながら、叔母、よっこらしょって、今度こそ立ち上がった。
叔母が持ってきた離婚届けには、住所と電話番号と共に叔父の名前が書いてありました。
住所は米国であり、電話番号も米国のもので。
本籍は、この家になっています。
「じゃあ、勝江、離婚届に名前を書きなさい」
「え?」
「証人欄は私とアメリッシュで書いておきましょう」
「姉さん、でも」
「調査しても何もわからないから、これはもう、あの男に会う必要があるわ。その理由に離婚届けを持って行くってことにしましょう。スマホの番号はわかってるんだから連絡をいれます」
「で、でも、この年で離婚なんて、そんな体裁の悪いこと」
「なにを言ってるの。結婚のときの方が、よほど恥ずかしい理由でしたよ。あの当時にできちゃった婚なんて、ありえませんから」
「姉さん、子どもはできてなかったから」
「あ〜〜ら。じゃ、なんで妊娠したって」
「それは、その、嘘も方便って」
オババ、怖い顔でにらんだ。
それから、表情が崩れたと思った次の瞬間、クッて吹き出すと、次にブハッーって爆笑した。
そして、笑い出すと止まらなくなったのか、机をバンバン叩いて、
「あほすぎて、もう・・、信じられない・・あの馬鹿、それ・・・、ひっかかって、ヤッタヤッタ詐欺ね・・・」とか、言いながら大笑いしてました。
「よく騙せたわね。ま、弱々のあんたにしては上出来だけど」
「だから、アパートで酔っ払って寝てたから、その横に朝になるまで」
「ほう。どういう姿で、服は」
叔母、耳まで真っ赤になりました。
「それは・・・、服は、脱いで」
「で、あの男、目覚めて、どうしたの」
ちょちょちょ、待った!
私にも心構えがいるって、その先。
だって、そん時は、叔母、きっと可憐な娘だった。
きっとそうだったと思う。
でも今、目の前にいるのは娘じゃなくて、
ヨーダだから。
朝、ベッドで裸って。
ヨーダの裸しか想像できない〜〜!
「あの人、・・・寝ぼけてて、手を出してきて」
「ほう、そっから」
「そっから、そのまま・・・」
「ほう。一応、手を出したというわけか」
「ま、ま、そうよ」
ヨ、ヨーダにかよ。
「最後まで」
「そ、そうよ」
ヨ、ヨーダァァァ・・・!
やることやってるんかいィィィ・・・!
ナサニエル・ホーソーンの不朽の名作『緋文字』という小説をご存知ですか?
17世紀のピューリタリズムが盛んだった頃のアメリカ・ニューイングランドの話です。
へスター・プリンという女性が姦通の罪を犯し、監獄から連れ出されるところから、物語ははじまります。
晒し台にあげられたへスターの胸には『A』という緋文字がつけられています。
女は夫がいるにも関わらず、他の男の子どもを産んだ罪で、晒し者にされたのです。
当時の姦通罪です。
胸に縫い付けられた『A』は「姦通」または「姦通を犯した女」を意味するAdultery、Adulteressの頭文字です。
現代のアメリカじゃあ考えられない世界感です。
米国テレビで放映されたドキュメントでは、若い女性が男と何人寝た、なんてこと自慢しているのが、平成からの令和の時代です。
緋文字『A』が大安売りの時代に、この当時の空気は読めません。
日本でも、戦後から30年くらいは、まだそうした空気が残り、女性にとっては息苦しい時代だったかもしれません。
急激な変化はバブル前くらいからでしょうか。
オババの青春時代は処女性が非常に大切にされた時代です。
「あの人は、私に優しかったけど、愛してはくれなかった」と、ポツリと呟いた叔母。
雨が降りそうな空模様に、もうすぐ梅雨だと思いました。
to be continued
追伸:ヨーダでありますが、実はブロ師匠さっとんさんに、そう呼ばれてインスパイアされ書いたものです。
さっとん (id:m-tora)さんの記事は、非常に読みやすく、参考になる専門的内容が整理されて書かれ、初心者必読だと思っています。
ブログ作成のために勉強になることがいっぱいで、アップされたときは、いつも読んでます。
今回はさっとんさんに敬意を込めてのヨーダであります。
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映画『緋文字』『スカーレット・レター』
この小説は何度も映画化されました。
古くは1934年公開の『緋文字』
1972年公開ヴィム・ヴァンダース監督の『緋文字』も有名であり、
1995年公開の『スカーレット・レター』はデミ・ムーア主演でした。
最近では、2010年公開の『小悪魔はなぜモテる?!』エマ・ストーン主演。ここまでくると別物って感じですか、脚本を書く上で緋文字が影響されたそうです。
ま、それほどの名作だってことでしょう。
時代背景には、当時のアメリカン・ピューリタリズムが深く関係しています。
ピューリタリズムとは
1 キリスト教のピュリータンの思想および信仰。清教徒主義。
2 潔癖主義。厳正主義。
と、グーグル先生が書いてます。
堕落したイギリスの国教会から、ピュアになろうとして、迫害された人々。
彼らが米国に逃亡して、ニューイングランドに村を作り厳格な清教徒主義を貫いた歴史のなかで、そりゃあ、まあ不寛容にもなろうって話です。
緋文字も活躍してそうです。
民衆のはけ口が魔女裁判的な行動に向かうと、恐ろしかったでしょうね。