【毒親と結婚と離婚2】映画『万引き家族』が絵空事じゃない叔母のドラマ
《オババ》私の姑、人類最強のディズニーオタク。妹の夫とは同級生
《叔母・勝江(仮名)》オババの妹、ヒステリー性障害を患う。娘を溺愛し結婚に反対
《叔母の夫・あの男》米国に本拠地を置く会社CEO。米国の会社を清算して日本で病気療養中
『万引き家族』が欧米でうけいれられる背景には、家族の絆という暖かさの裏に、底辺に生きる人々の救いようのない絶望が描かれているからでしょうか。
そして、そこまで困窮してなくても、さらに裕福にみえたとしても、壁の向こう、一歩先に進むと、そこには絶望が待っていたりするんです。
姑のオババがいきなり家に来てました。
「ともかく、勝江の家に行く」
「は!」
てか、なんで私「は!」って言ってる?
実は好きなんか。巻き込まれんの好きなんか。
もう、わけわかんないわ。
しかし、詳しくオババの話を聞いて、こりゃ、アカン、行かねばと思った次第です。
「あの男、かなり切羽詰まっていてな。実は日本の土地と家を、もうすでに勝江に生前贈与していた」
あの男とは叔母の夫でオババの同級生のことです。
「それでいいんじゃないですか?」
「問題は勝江のほうです、これから贈与税について教えなくては」
「贈与税?」
「日本の税金問題じゃ」
オババの説明によると、
叔父と叔母の場合、相続には複雑な事情がからむそうであって。
夫婦とはいえ、この10年、別居状態で夫は米国、形ばかりの妻は日本。
叔父の生活拠点はアメリカで、日本に住民票がないんであります。
トランプ政権による保護貿易は、叔父のような日米との貿易で成り立つ会社には大きなダメージで、というのも大手企業は製品の現地化を加速させていて。
そうしたストレスが、あるいは誘発したのか。
叔父は肺がんを患い、米国で最先端の治療を受けた。治療費がバカ高ってな話は前に書いたとおりです。
読んでない人に教えとくと、日本の常識じゃ、その額、ありえないから。
たとえばね、米国で盲腸手術を受ければ400万円だから、お察しです。
叔父、癌だから。
難しい手術に数千万円なんてことザラなんであります。保険があっても高額治療費に破産するアメリカ人は多いんです。
こうした事情が重なって、叔父は米国で破産申請しました。
叔母と娘の優ちゃんは国民健康保険に加入しており、叔父が支払っています。
ですから、手術後の抗がん剤治療のために日本に戻ったわけであります。
こちらも、高額医療になりますが、日本の場合、10万円を超えた治療費は戻ってきます。
「あの男の生活はアメリカですから。勝江の住む日本の家は財産でしかありません。破産申告をすれば、日本の家を放棄するか、叔母に離婚手当として相続させるという究極の2者択一しかなかった」
「叔父さん、けっこういい人ですね」
「どこがじゃ。勝手にアメリカに行き、あっちで生活して、破産したからって日本に舞い戻って」
オババ、言葉がきついです。
叔父の看病に行っているのですから、おそらく、これはオババ流の愛情なんでしょう。
「でも、叔母さんに家を譲ってくれたんですから」
「そこよ、問題は。あの家は贈与の対象になってしまうんです。今度は日本の法律でね。あの男は生きてますから、ガンくらいで死ぬような男じゃありませんからね。いっぺん、地獄に突き落としてやろかって思いますよ。だから、そうなるとね、生前贈与で莫大な税金問題が発生して」
「税金ですか」
「そうです。勝江は、そういうこと疎い女ですからね。困ったことになる」
こっからが、キモです。
私、もう、びっくりであります。
受贈なんとかって法律用語は難しいけど、日本の法律は、もらったほうが税金を払う仕組みになってんの。で、叔母の家、都内にあって、土地もある。
これが、問題なんであります。
叔母の住む場所、叔父の家族が古くから住んでいた場所で、贈与税は路線価で計算されるため、いまじゃあ坪単価100万以上。
土地の広さから価値は、正確に調べてませんが8000万円を超えます。
もう、調べるまでもなく高額相続の対象です。
おまけに、住民票のない叔父からの生前贈与ですから、軽減税率、なにもない。遺産相続なら妻としての軽減ありますが・・・。
オババが、あの男は死にそうにないって言った言葉、別の含蓄、ふくんじゃってます。
で、最高税率がかかり55パーセント取られるとなったら、
100年近いボロ家に土地に、な、なんと、5000万円近くの現金が必要。
そんな金、ある訳がねぇ!
住んでいる場所が、いくら価値があるといっても、売らなきゃ無価値。
ただ住んでるだけだから。
例えば、これが田舎のほうで路線価が坪単価10万なら、500万円。
(ただ、この場合、金額が低いので税率も低くなり実際はもっと、かなり安いです)
自宅に住むために5000万円、来年までに用意しろって言われたら、年金生活で、あなた、どうします?
妻に生前贈与する場合の軽減税率も受けられない叔母の特殊事情。
ぴっちり税金、取られるんであります。
年金暮らしの収入なしで、おまけに、オババ家族は貯蓄するなんて考え、DNAレベルからしてない種族だから!
叔母のように、その場所に執着する人間。とくに見栄っ張りだからって、これはオババの言ったこと、私、思っても口に出してないけど。
多分、叔母が百万超える貯金を持ってたら褒めると言っております。
それくらいの金って単に焼け石に水です。
日本では、親子で3代が相続したら、財産は消えるって、こういう意味なんでありましょう。
「宵越しの金はもたねぇ」
「よ、江戸っ子だねぇ」
なんて言ってる場合じゃない。
で、青ざめたのは、さらに次の話。
脱税すれば、来年、恐怖の脱税マン、マルサが家にやってくる。
さすがに、まずい。
その火の粉、こっちにも降りかかってくるんだそう。
叔母が税金を支払えなければ、優ちゃんに、優ちゃんが無理なら、姉のオババに、オババまでいくと、うちの夫だって無傷じゃあおれない。
税金のドミノ倒し!
ゲゲゲっであります。
全員、そろって未来は万引き家族か?
アカン、なんとかせにゃ、アカン。しかし、これほど難題になるとは、この後、叔母に会って、さらに絶望したんであります。
to be continued
映画『万引き家族』
そのほか、第91回アカデミー賞外国映画賞ほか、海外の評価が高く、多数の賞を受賞しています。2018年公開。
貧しい暮らしをする5人家族。
そこへ虐待を受けた少女をフランキーが連れて帰ることから、物語ははじまります。イタリアの貧しい家族を描いた古い映画、たとえば『鉄道員』なんかを少し彷彿する映画です。
暗いです。辛いです。
監督:是枝裕和