《オババ》私の姑、究極のディズニーオタク。ディズニー愛がすべての豪傑。
《叔母》ひとり娘をこよなく愛する優しすぎる叔母、娘の婚活に悩むオババの妹。
《優ちゃん》叔母のひとり娘。究極の箱入り娘。39歳で初恋。結婚詐欺問題が発生中。
🔴 🔴 🔴
「アメリッシュ、天王山だ」
「ハッ!」
「優ちゃんのため、一肌ぬいでくれるな」
「力およばずとも、精一杯で」
「私も、こうなったら一肌でも二肌でも、なんなら全部ぬいでみせようぞ」
オババ、それはアカン。全ヌードはさすがに困る。
誰が困るって、私が一番見たくない。
叔母の家を後にしてすぐ、国道を運転中に優ちゃんからメールが届きました。
結婚詐欺師認定済みの太郎が、みんなに会うという。
次の土曜日が、都合がいいらしい。
速攻の返事とは・・・、なかなかキモがすわった相手のようです。
ネットで調査した、ある狡猾な詐欺師と似ているのかもしれません。
某記事によると
婚活アプリで出会った、その結婚詐欺師Aは、女性の親戚に堂々と会い結婚式場まで決めてからの、まさかのドタキャン。実はAは既婚者で自称34歳だが、実際は54歳だったという。年齢さえもサバを読まれ、式場の契約金など大金を騙し盗られたとありました。(東洋経済onlineより)
太郎も相当のツワモノかもしれない。
ともかく会ってからの話とオババ。まずは優ちゃんの目を冷ますことを主軸とする計画になりました。
「では、会う場所が大事ですよね」と、車のハンドルを握りながら、オババに聞きました。
「そう、場所をどうするかじゃ」
「叔母の家はまずいですね、詐欺師に家を知られるのは」
「もちろん、ダメでござろう」
うーーん、オババ、まだサムライ言葉が抜け切らない。相当に気合いが入っている証拠です。
「でも」
「ん?」
「すでに優ちゃんが自宅を教えている可能性は、何%でしょうか」
沈黙が降りた。
「ホテルなら当てがある」と、オババ。
自宅の話は聞かなかったことにしたようだ。
「よかったです。場所は重要ですから、当てがあって、それでどこですか?」
「ディズニーランドホテルだ」
え? 私の聞き間違いか?
今、ディズニーランドホテルと言わなかったか?
🎶僕らのクラブのリーダーは〜〜
ミッキー ミッキーマウス
頭のなかステレオ音量で、ミッキーミッキーマウスって鳴り響きました。
「いえ、それは、今回は、ちとまずいかと」
「では、ミラコスタあるいはアンバサダーホテルでも」
マジですか、オババ。
マジで言ってますか?
ディズニーランドホテルがダメなら、ミラコスタにアンバサダーって。
同じだから、それ、まあああああったく一緒だから。
全部、ディズニー直営ホテルだから、ディズニーが誇るホテル代表だから。
だめだぁーー、ダメすぎて言葉がでない!
私がしっかりせねば、ディズニーと詐欺で収拾がつかなくなる。
ディズニーリゾートの、あの底抜けに明るい場所で、オババが冷静になるはずもなく、いつものようにアトラクションめがけてまっしぐら。
それを追いかける私たちって、
詐欺師も驚くわ!
そりゃ、逃げるわ!って、
え?
え?
えええーーー!
案外、オババ策士かぁ?
その策悪くはないのかも・・・、てなこと考えた私、理性的な思考能力が残っているのか苦しみます。
「土曜日のお天気はどうなんですか」
「天気晴朗なれども波高し」
「あの、波って」
「知らぬのか。ロシアのバルチック艦隊を撃沈した秋山氏の言葉ぞ」
聞かなかったことにしておこう。
信号待ちでググると、土曜日はクソ暑い日になると予報しています。
30度を超えるディズニー、そして週末。激混みのうえに、猛暑日が重なると、それは・・・、
ディズニー、悪い考えでもないかもしれない。
あの試練に耐えうるほど、詐欺師の人間ができているはずがない。逆に、それほど人間ができていれば、詐欺師などなっていないでしょう。
「ディズニーの直営ホテルはパークに近すぎないでしょうか。別のオフィシャルホテルでは」
「では、シェラトンでも苦しゅうないぞ。あそこのレストラン、まだ入ったことはなかった。なかなか良さそうであるな」
って、オババ、なにをしに行くのか忘れてないか?
「お昼前後なら、みなパークに出払ってホテルは静かであろうしな」と、更に自己主張を強固に固めています。
「確かに」
「午前中は、それで我慢して、午後からのスターライトパスポートを使えば、チケットも安い」
オババ、やっぱり本筋から、少しズレていないか? 少しだけと思う私の判断力がズレているのか?
そして、運命の土曜日です。
朝からキラキラ輝く太陽が眩しいほどの晴天で、気温はぐんぐん上がっていきまた。
私たちはシェラトングランドベイホテルに向かいました。
オババはディズニーファッションで平常運転です。
間抜けすぎて、もう言葉もないです。詐欺師、ディズニーグッズに身を包んだオババをみて、どう判断するでしょうか? ま、混乱はするでしょう。
そういう意味では正解なのか?
これらかの予想が全くつかないアメリッシュです。
私たちは先に到着していました。待ち合わせ場所はロビーです。
叔母も合流しましたが一人でした。
「優ちゃんは?」
「なんでもモノレールまで迎えに行くと」
「いきなりの遅刻か!」
いや、オババ、私たちが早すぎるから。
約束は11時30分。
今はまだ11時。
オババ、ロビーの正面入り口前に立ちました。
ディズニーファッションのまま、左右に両足を広げ仁王立ちしています。
ま、まさか、このまま30分、立ち続けるおつもりか。
ロビーのドアが開くたびに、入ってくる客を睨んでいます。
彼らは一様に目を逸らします。そして、一様に背後からチラチラみてきます。
ごめんな、楽しいディズニーのひとときに異様な空気を持ち込んで。
私たち、これから詐欺師との決戦が控えているんで。
・・・。
私、少し後悔してるんです。この場で、仁王立ちの背後で、おつきの従者。とてつもなく荷が重い。なにも持ってないけど、なんか重い。
その時です。自動ドアのガラス越しに二人の姿が見えました。優ちゃんと気づいた瞬間、彼女の姿が視界から消えました。
ホワット?
と、男が優ちゃんの肘をつかんでいます。
そうであった。優ちゃん、すぐ転ぶんです。とくにハイヒールを履くと、もう、人間起き上がりこぼしかってくらい、グラグラです。
隣をみると、オババの口元がギュって感じに引き締まっています。
そう、詐欺師だ! ヤツは詐欺師なんだ。
しかし、男は・・・
想像していたイメージと違いました。
浅黒い肌に身長は低め、優ちゃんが160センチくらいなので、それよりか、少し高いだろうか。ハイヒールの高さを考慮しても170センチはない。
体型は引き締まっています。
髪、茶髪じゃないです。なんか気持ちが狂います。普通の髪色で、今風にくしゃくしゃではありますが、それは、ただ単にそういう髪質という感じ。
今日は暑いですが、襟のついた長袖のシャツと普通のスラックスは、よそいき感まる出し。
アイロン必死でかけまくりましたって、すぐわかります。主婦、その辺りの眼力では他を凌駕します。
写真では滝藤健一に似ているかもと思いましたが、実物は全く違いました。
普通でした。どこにでもいそうな男で、特徴がない。強いていえば、普通より日焼けしているくらいでしょうか。
ドアガラスの向こう側で、ホテルスタッフが何か声をかけています。おそらく転びかけたので「大丈夫でしょうか」などと聞いているのでしょう。
長い時間でした。
待つ時間は長く感じるものです。
弁慶さながら仁王立ちのオババ、少しづつ背中が曲がってきます。
と、
自動ドアが開きました。
ふたりが歩いてきます。
浅黒い肌に白い歯がキラっと目立つさわやかな笑顔で、男は少し照れながら「はじめまして」と言いました。
to be continued