アメリッシュガーデン改

姑オババと私の物語をブログでつづり、ちいさなガーデンに・・・、な〜〜んて頑張ってます

【現代転生】455年の過去から来た女:その2

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目覚まし時計



  マチは目覚めると、いい匂いに気づいた。かつて嗅いだことのない不思議な匂い。この匂いはなに? 花の匂い?


 かあちゃん、花でも摘んできたんか……。

 

 起き上がろうとすると身体がいつもより重い。そして、なぜか、ひどく怠い。ものすごくだるくて、マチは目を開けたくなかった。

 右の頬や身体の脇にある感触が違う。
 これ、ふんわりと柔らかいけど、なんだろう?

 

 こんなフカフカな床は経験ない。
 夢でも見ているのだろうか?

 

 ああ、そうか、これはまだ夢だ、それとも夢の中の極楽にいるんだ。
 そう、目覚める前にマチは大きな誤解をした。


 その誤解はあっという間に霧散したんだけど。

 

 そこは極楽なんかじゃなかった。地獄よりもひどい。神も仏もいなかった。

 地獄はジリジリジリという凄まじい大音響ではじまった。

 

 ジリジリジリ!

 

 危険を知らせる大鐘の音ではない、まして、太鼓でもない。
 まったく聞いたことの覚えのない不気味な音。

 

 地獄の鐘か?

 

 現代人なら目覚し時計を知っている。
 しかし、時計を知らない、先進国など見たこともない戦国時代に生まれた女が、最初に耳にしたのが目覚まし時計。この不幸を誰が予想できただろうか。

 

 ジリジリジリ!

 

 マチは飛び起きた。

 起きた瞬間、ソファから落っこちた!
 それでも、目覚し時計は鳴り続けている。

 

 彼女はキョロキョロして、それから、音がなる正体に気づいた。奇妙な丸い硬いカラフルな小さな物体に、悪霊をみた。


 マチにとって幸運だったのは、周囲の奇妙さに気づく前に、目覚し音に注意をそがれた点だった。目覚し時計の効用といえば、マチにとってそれくらいものでしかなっかった。

 

 午前10時55分。

 

 もし、マチが時刻を読めたら午前10時55分になっていたはずで、怠け者アメが朝の一仕事を終えて、二度寝するために目覚しをかけていたと知るはずもなかった。そして、11時5分前という絶妙な時間設定の芸術的配分に気づくはずもなく。

 

 というのも、起きる5分前だと、あと5分残って得した気分になるのであって、この惰眠(だみん)へのあくなき欲求からの時間設定であったのだ。

 

 と、まあ、そんなことを得々と説明したとしても、戦国生まれのマチにとってはどうでもいいことだろう。

 

 悲しいことに現代人に言っても理解し難いらしく、この絶妙の5分を夫に告げたとき、鼻で「ふん!」とかわされた。
 ま、いい。男というものは真髄(しんずい)というものを理解しないイキモノなのだ。

 

 彼らは、2度寝職人の朝を知らない!

 

 で、マチも怯えた。ものすごく怯えてから、怯えた人間が最初にすることを、丁寧に一通りやりとげた。

 

 つまり、目覚しから遠ざかり、それから、じっとそれを見て。
「命ばかりは!」と、平伏した。

 

 時計は鳴り止まない。

 

「ナミアミダブツ、ナミアミダブツ、ナミアミダブツ」

 

 時計は止まらない。

 

「ぎゃ、ぎゃ、ぎゃあ〜〜〜!」

 

 時計は止まらない。

 

 少なくとも、その鳴る物体は小型の丸いもので、すごい音を発するが危害を加えてくるわけでもない。そう理解するのに、おそらく10分はかかっただろう。


 というのも、アメの目覚しは10分で音が鳴り終わるからだ。

 

 アメ哲学として、10分で目覚めないなら、それは寝足りないということで、自分を甘やかすこと山のようなアメは10分を限界と心得ていた。
 つまり、この目覚ましは10分で止まる。

 

 さて、現代人と違い、戦国時代の人間は、特に一般の庶民は時間の進みが違う。時に支配されていないから、せっかちじゃない。


 10分間、マチは、なんの行動もおこさず、叫び、それから、ありとあらゆる神仏に祈り、そして、再び叫んだ。

 

 神仏に順繰りに巡り、ときおり叫び声を挟みながら、お狐さまに頼んだとき、音が鳴り止んだ。


「な、かあちゃん。やはり、お狐様の霊験が一番すごい」と、心のなかで思ったのも、むべなるかなだ。

 父親の死から生活が困窮し、かあちゃんとマチの間では、どの神様が願いを聞いてくれるかという論争まで起きていた。

 

 マチはお狐さま、母ちゃんは仏さまだった。
 だから、マチは勝ったと思った。その小さな勝利に少し酔っただけで、結局のところ脅威は変わらない。

 

 部屋は急にしんと静まり、彼女は戸惑った。
 平伏したまま、マチはそのままの態勢で、お狐さまに礼を言った。
 それが早すぎることに、まだ気づいていなかった。

 

 マチは礼をいいながら、ちらりと視線を横にむけた。

 

 見慣れない!
 何じゃ、これ?

 

 マチの右の視界には、四角い黒い棒が組み合わさったものが見え、左には布でできた何かがある。
 左側はマチが落っこちたリビングルームのソファだ。

 

 マチには想像もできなかっただろうが、黒い棒が組み合わさったものは、キッチンテーブルで、実はアメが探しに探して見つけた大事な大事なテーブルだったのだ。

 

 おそるおそる、マチは指を伸ばして、コリコリ、爪で傷をつけてみた。
 テーブルの足の一部が削れとれ、少し傷がついた。
 もうちょっと、コリコリしてみた。

 

(や、や、や、やめい!)
(私のモダンテーブルを傷つけんな! 高かったんだ。崖から飛び降りる気持ちで買ったんだ!)

 

 寝起きの、それも二度寝の怠い身体にアドレナリンが周回遅れでまわり、彼女は興奮状態になった。
 数分、状況が飲み込めず恐れ続けた結果、マチは恐れることに飽きたとき、悪いことに玄関ドアが開いたんだ。

 

 そこでマチの見たものは、たまたま、自宅に訪れた私の母だった。

 

(お読みいただきありがとうございます。この続きは下記に書いております。

現代ファンタジー『【現代転生】445年の過去から目覚めた女』

 

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