アメリッシュガーデン改

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【書評】衝撃的な問題作『ボダ子』。著者、63歳。住所不定の大型新人作家赤松利市氏

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赤松利市著『ボダ子』

共感なんてできない問題作『ボダ子』

 

63歳の新人作家が描く心臓をえぐる実体験小説『ボダ子』。

今、私は読み終わって、呆然と上を向き、しばらく言葉を発することができなかった。

衝撃作という手垢にまみれた表現を使いたくないけれど、あいにくと、この脳みそでは他の単語が思い浮かばない。

 

「63歳、住所不定の新人。異能の作家が実体験をもろに描いた正真正銘の問題作」

本の帯には、思わず手に取りたくなるキャッチコピーがあった。

63歳で新人作家デビュー?

その上、ホームレスで、さらに、帯には「あらゆる共感を拒絶する極限を生きたある家族の肖像」とある。

 

ひょんなことから、私は、この作家赤松利一氏のインタビュー記事の依頼を受けた。そして、彼の自伝的小説「ボダ子」ほか数冊を読んだ。

 

仕事としてインタビュー記事を書く場合、一応の基礎知識を取材してから挑むことにしている。

作家の場合なら著作を読み、歌手なら曲を聴き、学者の方なら、その方の研究の基礎知識という具合にだけど。

 

さて、彼は新人作家である。

昔なら本屋に行くところだが、今はアマゾンという便利なシステムがあって、まったく世界は私を外出させないために、ありとあらゆる進化へと遂げているようだ。

新型コロナウイルスのためだけでも、こうしたシステムがあってよかったと思う。

ま、関係ないことだけど、と、ちょっと故意に休憩をいれてみた。

こうやって、熱を持った頭を冷やしていないと興奮して何を書くかわからない。それほど、魂をゆさぶられる衝撃作だったんだ・・・

 

赤松氏のインタビューという仕事依頼がきたのは、コロナでパニックになる少し前、彼の著作を何冊か買い求めた。 多作な方で、デビューして1年ですでに6冊ほどの著作があり、さらに増えている。

 

昨年、依頼を受けてからインタビューまで、1週間ほどと時間がなく。

実体験に基づく、正真正銘の問題作だという『ボタ子』を最初に読んだのだ。

で、今、私は、天井をみて、それから、呆然として、それから、「こんなことが・・・」と、ただただ畏れを感じている。

 

ボダ子とは、小説の主人公である大西公平境界性人格障害を患う娘のことで、彼女の障害を英訳するとボーダーだから、ボダ子。

公平は3度の離婚をして、その3度目の妻の娘がボダ子だった。

 

ボダ子は寂しい。寂しいだけじゃなく公平の離婚した妻から、精神的なネグレクトを受けていた。

父である公平が彼女をひきとり、うまく回復させたとかいう。そんな生ぬるい物語ではない。実に実に人間的で、そして、救いのない物語が展開していく。

 

例えば、ヘレン・ケラーのように三重苦という特殊な障害を持っても、その生涯は尊敬に値する。

しかし、ここにそんな偉人の姿は全くない。ただ、障害や難問に、極めて人間的に押しつぶされ、そのまま、泥沼であがくだけの人たちが生きている。

そして、私はこれまで、こうした形の多くの救われることのない人々を見たり聞いたりしたことがある。

近親者や友人の子、それから、友人の夫や友人の不倫相手や、ニュースになる殺人者に。

 

境界性人格障害をもって生まれた子の、その親の悲劇は簡単には語れない。

他人なら、ああすればとか安っぽい適当な解決策を提示することはできる。

公的機関に相談すればとか、あるいは、近所のいい人たちが、「言ってくれれば良かったのに」などと安易にほざく。

私は実感として知っている。

一瞬の勇気と、一瞬の善意なら、多くの人が持ち合わせている。

自分の許容範囲で手を差し伸べる。それでも、尊いと思うが、実際のところ、自分の人生をかけてまで救うことなどできない相談なのだ。

突然の不幸な状況でオニギリ一個を差し出すことができるが、慢性的な飢餓の状態が続く中で得たオニギリを差出せる人はいない。そんな意味だ。

 

解決策は、ひとつしかない。

私は、その方法を、ひとつしか知らない。

逃げる。

 

そして、この本の主人公も結局は全てを捨てて逃げた。

なぜなら、それ以外に方法はないからだ。私の出会った人々も時間の差こそあれ、彼、彼女らには結果として逃げるという選択肢しか残っていなかった。

 

この本の帯には、「共感を拒絶する」とあった。

そう、共感などできるはずもない。

かわいそうな子を捨てる親に共感することなどできない。

しかし、もし、あなたが、この子の親だったとき、あなたは我が子を見捨てないのだろうか。私はごく近い人にこうした親を知っている。そして、逃げなかったために、結局、家族は離散し、そして、親は精神を病んで亡くなった。

 

「ちきしょう、金だ! 金だ!

絶対主義の金をにぎるしかない!」

この悲痛な叫びを非難することができるだろうか

 

人間は悲しい。

 

『ボダ子』を読み、これを書いた翌日に、

私は作家赤松氏にインタビューのため、浅草のとあるファミリーレストランに行った。

 

いったい、何を聞けばよいのか。

これほど、インタビュー取材で緊張したことは過去になかった。

 

 

 🌷   🌷   🌷

 

赤松利市氏の簡単な経歴

1956年、香川県大川郡長尾町(現さぬき市)生まれ。

関西大学文学部卒業。2018年「藻屑蟹」で第1回大藪春彦新人賞を受賞、62歳で作家デビュー。『鯖』『らんちう』『藻屑蟹』『ボダ子』『犬』などの作品がある。小説の主たるテーマは貧困とマイノリティ。

主な著作

#『鯖』徳間書店 2018年

#『らんちう』双葉社 2018年

#『藻屑蟹』徳間書店 2019年

#『ボダ子』新潮社 2019年

#『純子』双葉社 2019年

#『犬』徳間書店 2019年

#『女童(めのわらわ)』光文社 2019年12月

#『下級国民A』2020年

#『アウターライズ』中央公論新社 2020年

ほか

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