《オババ》私の姑、人類最強のディズニーオタク。妹の夫とは同級生で破産した彼の財産を守るために、叔母との離婚に手をかす。
《叔母・勝江(仮名)》オババの妹、ヒステリー性障害を患う。優ちゃんの母親、娘を過保護に育てる毒親。結婚に反対していたが妊娠でコロっと変わる。離婚したことを知らない。
《優ちゃん》叔母のひとり娘、39歳。婚活アプリで知り合った太郎と熱愛、過保護母に結婚の邪魔をされ、太郎と駆け落ち。妊娠が発覚。
《太郎》35歳。高校時代に親を亡くし、一人で農家を切り盛する勤労青年。
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離婚と婚約指輪事件
「お義母さん、離婚されていたんですね」
た、太郎〜〜〜ッウ!
絞め殺す!
叩き潰す!
てか、あんたが悪いわけじゃない。
悪いのは、我らだ。
けどな、ここに至る道筋、どんなに冷や汗かいて、上手く納めたと思ってんのよ。
私、メンタル崩壊中です。
オババと一緒に、思わず病室から逃げ出して、
で、病院の廊下って、なんであんなに不気味なんでしょうか?
全体が白一色の無機質で、蛍光灯の光って、顔が怖いんで。
青ざめた私の顔も、おそらく、オババの顔と一緒くらい怖い。
その自信、かなりある。
でも、太郎!
な、なんちゅうことを言った。てか、言った瞬間、もうね、逃げるしかないって、思った。他の方法、選べなかった。
ひでじろう( id:hidejirokun)さんが衝撃の一言って、メガトン級って書いてらしたけど、
そう、衝撃事件は現場で起きてる。
もう言葉なくすから。
で、あの時と同じって思った
『あの時』って言葉が頭のなかで繰り返し、ぐるぐるしていた。
それは大学を卒業して就職後、久しぶりに友人と旅行したときで、
2日目に泊まった宿で、友人が指輪をなくしたんです。
最初は軽く考えてた、どっかに置き忘れたって。
すぐ見つかると思って、失った本人はパニクってたけど、私たち、余裕でさがしてた。
「ない、ない、ない!」
なくした本人、だんだんと理性が飛び始めて、顔、カメハメ波撃つまえのドラゴンボール孫悟空!
どこ探しても見つからないって、温泉浴場から、部屋から全部、必死になってさがしても発見できない。
宿の人にも連絡して探してもらった。
それでも発見できない。
涙目になって孫悟空。
「婚約指輪なの」
「へ?」
「なんでそんな大事なものなくすの」
「なくしてない。だって、大事だから・・・、あの、あいつ」
その瞬間には、友人全員、アイツが誰かわかっていた。
この宿に怖いというか、なんていうかヤクザぽい優男の仲居の男性がいて、部屋のお布団を敷いてくれてたんだけど、見た目、ほんと怪しいかんじはした。確かにした。
部屋中を探して、大騒ぎして、友人、泣きそうになって、というのも、婚約指輪だから。学生時代からつきあって、ついに結婚と言わせた。友の勝利宣言であったはずの婚約指輪。
「あいつが怪しい!」
同時に、友人3人で、あいつが怪しいって思ったわけ。
ともかく、見た感じがみるからに怪しい雰囲気かもしだしてた。
で、部屋にある電話から連絡して、ちょっと婉曲的だったけど、ま、あの人がって匂わせてもまずいから「指輪がどこ探しもたないんです。警察に連絡して」と宿に言ったわけ。
で、宿のほうも、ちょっとした大騒ぎになって、しばらくして、支配人と名乗る男から連絡がきて、それで、宿のロビーで話した。
3人ともかなり警戒していた。負けないぞってそんな勢いだった。
「お客様、当館では、まずそういうことはありませんが、警察に連絡をいたしますが、その前にもう一度、お部屋の金庫などをお調べいただけないでしょうか」と、とても慇懃な態度で言われた。
「実はお探しになって、金庫から出てきたということ。前にもありまして。申し訳ございませんが、再度」
「さっき調べたわ」
「念のためですから、もう一回調べていただいて」
「ないわよね」
なんて話しながら、「で、暗証番号は?」って、部屋に帰って番号いれた。
で、で、で、ね!
「あ!」って婚約指輪なくした張本人。
「あった」
「え?」
「あった」
あったわけさ。婚約指輪、金庫の中の隅のほうで輝いていた。
なんであるんよ。今更、もう、こうなったら婚約指輪、どっかに消えてて欲しかった。盗まれてほしかった。
我が友、全員そう思った、言葉を失った。
「ど、どうする」って私。
「警察にって言っちゃった」
「アメ、どうしよう」
こそこそ騒いでいたとき、ドアがコンコンって、
「コンコンしてる」
「誰か出て」
「いや、そこはその失ったと言われた、ご本人が」
「いえいえ、私が前にでると、そこは、やはり問題が」
「ここは、アメ」
「いやいや。私、簡単な事態を、すかさず厄介にする天才であって」
「お客様〜〜〜。大丈夫でしょうか?」
って声が聞こえて、全員でドア開けた。
かしこまった支配人ともう一人女性がいた。
「あの、警察にお知らせいたしましょうか」
支配人、慇懃な態度。
今、この状況では嫌味にしか聞こえん。
まさか、知ってんのか!
もしかして、テレパシーか!
「あ、いえ、あの」
「もしかして、発見されましたか?」
全員、それはもう、振り子のように頭ぶんぶんさせて頷いた。
「それはようございました」
支配人、神対応でにこやかに微笑んだ。
《こんなことはお客様、百戦錬磨の支配人にとっちゃあ日常茶飯事でございまして、あんたたち若いアホと、さんざん、これまでもやりあって来たんで、戦闘能力が違います》って心の声、聞こえた。確かに聞こえた。
アホって!
で、あの時の恥ずかしさと、困った状況といったら。
警察って強い口調で、宿を攻めた私たち!
若気のいたりというにはお粗末で、疑った仲居の男性、ほんとごめんなさいって、そんな気持ちでいっぱいだった。
その後、いろんなことはあった。
けど、間の悪さを感じた一番は、婚約指輪消失事件であって、
あれ以上の間の悪さ、衝撃を、また味あうなんて、そうそう人生にあるもんじゃないから。
あれほど、細心に計画し、叔母の税金破産から守るためってがんばったのに、
太郎〜〜〜!
オババと私。
もう逃げることしか考えられなかった。
『テルマ&ルイーズ』という、ちと古い映画があります。
で、私たちも逃げ出した。
もう、テルマ&ルイーズだった。
この映画、しっかり者のルイーズが、夫にDVされてるテルマを助けての、逃亡劇だったんだけど、途中で、なぜか主婦テルマ急成長して、ルイーズを引っ張ってた。
で、私、オババを引っ張って、夜の国道を35キロで疾走してた。
「どうしましょう」
「これは帰れんぞ、家に帰るわけにはいかん」
「し、しかし」
オババ、スマホのダイヤルをすると電話した。
「私だ。そう、アメリッシュも一緒にいる。もちろん、あんたの妻だとわかっとる。だから、私が姑なんです」
夫か、私の夫になんで、そんな説明が必要なんですか?
「いまは家に帰れない・・・、いや、息子よ、私を信じよ。あんたの妻は守りきってみせよう」
ま、守るって、事はそんな大変なんかい。
「とりあえず、家には帰れない。理由? 勝江が怒鳴り込んでくるからであります・・・、そう勝江です。なにをしたかって? たいしたことはしてませんよ。ただ、勝手に離婚させただけです」
オババ、無言です。そして、スマホの電源を切りました。
「あ、あの」
「まったく、あの息子は肝が小さい、小物感があります」
「へ? 私の夫がなにか」
「なんで、そんな馬鹿げたことにアメが巻き込まれてって、怒ってました」
えらいぞ、夫! 言ってやれ、もう、思う存分、言ってやれ!
でもって、運転集中してっから、メールもうてないから。
妻、ただいま、速度45キロにあげて逃走中だから。
オババ、ナビになにか打ち込んでます。
「な、なにしてんですか」
「息子にしばらく旅にでるから、お父さんに連絡しといてと」
え! えええええ!
テルマじゃないんだから。逃亡犯になるつもりないですけど。
「いえ、帰ります」
「そうか、そうしたいなら、そうしよ。ただな、勝江は怖いぞ」
いや〜〜、もう、いや!
どうすんの。オババ抜きで叔母と対峙!
不可能!
ナポレオンだって、不可能、辞書に書き加えるくらい
不可能!
「で、どこに」
「うむ、まずは、ディズニーじゃ」
うおおおおおおお!
ないないないない!
to be continued
『テルマ&ルイーズ』
監督:リドリースコット
1991年公開のハリウッド映画。
第64回アカデミー賞受賞
90年代の女性版ニューシネマと評された、この映画。
ロードムービーでもあり、女性の抑うつからの解放をテーマにした秀逸な映画です。
暴力的で傲慢な夫に耐える主婦テルマ、その親友でウェイトレスのルイーズは、ドライブに出かけ、そこで男に襲われ、射殺してしまう。
ふたりは逃避行を続け、これまでのしがない人生の鬱憤(うっぷん)を晴らすかのように楽しみます。そこに銀行強盗でヒッチハイカーの若者(ブラッド・ピッド)が加わって更に旅は続いていきます。
犯罪者となった二人を追う刑事ハル。いつしか彼は二人にシンパシーを感じ、助けたいと思いながらも、衝撃のラストシーン。
悲しいラストですが、爽快感いっぱいの良い映画です。
ブラッド・ピッドがまだ下積みのころに出演した映画で、このチョイ役から出演依頼が増え、あっという間に大スターになった記念すべき映画でもあります。その上、同じ役をジョージー・クルーニーもオーディションを受け、落ちてます。いや、その後の二人の活躍を考えると感慨深い!