アメリッシュガーデン改

姑オババと私の物語をブログでつづり、ちいさなディズニーランドに・・・、な〜〜んて頑張ってます

異世界ファンタジー物語が完結しました。

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フレーバング王国

みなさま。お元気ですか?

昨年の10月から書き始めた異世界ファンタジーカクヨムのコンテストで連載しておりましたが、やっと完結いたしました。

 

冒頭の2話は、短編仕様になっておりまして、今回書いた主人公サラの姉の物語です。

 

コロナで自宅にいらっしゃる方も多いと思います。

よろしければ、お読みくだされば、とても嬉しいです。

 

ファム・ファタール–宿命の女–』

 

いけにえの儀式[前編]



 この世界は三つの大国と周辺の小国で成り立ち、それぞれは微妙な均衡きんこうのもとで成り立っていた。

 

 ふたつの大国の間に位置するフレーヴァング王国は火山噴火の降灰に悩む乾いた土地だ。白い粉が舞う非情な地にあり、隣の大国のエゴに蹂躙じゅうりんされ、搾取さくしゅされる悲しい小国にすぎなかった。

 

 いつからだろう、人びとがそんな状況に慣れてしまったのは――

 

 同じような造りの貧しい家に引きこもり、ただ過ぎていく時のなかで怨嗟えんさの声さえも見失う。それが苦痛なのか、あるいは怒りなのかわからないほど彼らはんでいた。



 この地は残酷。厚い雲に閉ざされた白と灰色のモノクロ色しかない地獄。滅びゆく凍えきった世界はまるで意思をもつかのように破滅の時を待っていた。

 

 そんな彼らがすがる一つの希望。それは城に閉じ込められた炎の巫女みこの成長である。彼女は3年にひとり、異世界うるう年にしか生まれない選ばれた娘だった。

 

   「……救いを」

  「救いを」

 「救いを!」

 

 声なき声が深く静かに王国をおおっていく。その叫びは、時が近づくにつれさらに強く、一点に集約されていく。

 

にえを!」



 炎の巫女、竜一族のとらわれ児エーシルは、プレマイオ歴53年2月29日に18歳になる。11歳で親元からさらわれ、にえとして育てられた彼女は輝くばかりの赤い髪をもつ美しい娘に成長した。

 

 18歳になれば、彼女の能力がめざめる。にえの資格が満たされる。それこそがエーシルの務めだった。

 

「お時間です」

 

 従者の男が感情のない声で告げる。

 

「これは」

「今日のお召し物です」

 

 いつもの麻の普段着ではなく白い薄手のローブドレスだった。ついにその日がきたのだと彼女は理解した。

 

「両手をお上げください」と、彼は感情を抑えた声で言った。

 

 素直に彼女は両手を上にあげる。

 従者はエーシルの足元にひざまずきネグリジェをたぐり寄せ頭から脱がす。傷ひとつない白桃色に輝く裸体にローブドレスをかぶせる。身体が透けてみえる繊細なドレスは肌の美しさを際立たせてゆれた。

 

 シルクシフォンで織られた布は、ピンク色の乳頭も透けてみえるほど身体の線をあらわに浮かびあがらせる。

 

 すべてのものを誘惑する蠱惑こわく的な姿。従者は眉間に軽くシワを寄せた。それはまるでお気の毒にと言っているように見える。

 この偽善者ぎぜんしゃ……、エーシルは感情の失せた顔のまま心の奥であざける。

 

 着替えが終わった合図で外からドアが開かれた。向こう側では多くの見物人が待っている。

 高官や貴婦人たち、儀式に集まった高貴な人々がエーシルの姿にほぉっとため息を漏らす。彼らは、これまで彼女を検分し、けがれがないか頭から口のなか、そして、下半身まで仔細に調べてきた。

 

 エーシルは何をされてもあらがわない。争っても無駄なことを身体で味わった。苦痛と恥辱ちじょくに泣き叫んだ幼い頃、助けにくるものは誰もいないと心底から学んでいた。



『お前の一族は弱い』

『お前を救いに来る者などいない』 

 

 誘拐されたその日、地下牢で聞いた冷たい言葉。水も与えられず鎖につながれて数日がすぎた。喉がからび、舌は乾燥でひび割れ、喉から胃に至るまでヒリヒリとした激痛をイヤというほど味わった。一滴の水を得るためになら、なんでもすると叫んだ。

 

『……ご、ごめんなさい』

『その言葉が真実となるまで、なにも与えられぬ』

 

 非情な声に泣き叫んだが、地下牢のとびらは容赦なく閉じる。彼女の心が折れたのは何回目に閉じ込められた時だったろう。

 なにも考えず、ただ神々しく育つ。磨かれ輝かしい完璧な供物くもつとなる者……。

  

 

 ついに、その日がきたのだ。

 

「非の打ちどころがない」

 

 部屋に入ってきた国の宰相フロジは無遠慮に彼女をながめ、思わず舌なめずりをした。まるで自分の権利とでもいうように薄汚い手を伸ばす。

 

「あれ……には、もったいない。惜しいのう」と、宰相は口元を歪ませる。

「フロジ宰相。では、ご出発を」

「この、薄物の生地も悪くはないが、別を用意しておろう」

 

 フロジは疑義ぎぎを唱える。着替えを見たい欲望に勝てなかったのだ。今でさえ裸体と変わらないというのに。これまでも、この男は理由をつけてはエーシルをしてきた。その恥辱ちじょくに耐えるのも今日で終わりになる。

 

「こちらにあります」

 

 従者はコバルトブルーの薄い生地を広げた。

 

「着替えさせよ、今日で最後だ」

「では、皆さま、外へ」

「その必要はなかろう。最後の日だ」

 

 従者は軽く眉をひそめた。しかし、その抗議は彼のうちにとどまる。寝室のドアは大きく開かれたまま、宰相以外も出ていく気配はない。

 

「では」

 

 従者は新しいドレスを両手で捧げ、エーシルの耳元で囁いた。

 

「できるだけ私の身体でお隠しします。両手をおあげください」

 

 エーシルは従順に従う。両手をあげると、従者は足元からドレスを引き上げ、そっと脱がせた。エーシルは目をとじた。以前のように頬が赤くなるほどウブではない。心が石になってひさしい。

 

 ごくりと生唾を飲む男や女たちの声がさざなみのように伝わってきた。

 ひそやかな衣摺きぬずれの音がして、そして、新たなドレスが肌にまといつく。エーシルはまぶたをあげた。

 

「おお、どうだ。こちらのほうが、より美しい」

 

 フロジの声に反対するものはいない。実のところ、どちらのローブでも大差はないからだった。

 

「では、参ろうか」と、フロジは告げた。

 

(つづく)

 

kakuyomu.jp

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