《オババ》私の姑、人類最強のディズニーオタク。妹の夫とは同級生
《叔母・勝江(仮名)》オババの妹、ヒステリー性障害を患う。娘を溺愛し結婚に反対
《叔母の夫》米国に本拠地を置く会社CEO。米国の会社を清算して日本で病気療養中
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翌朝、私、ベッドから出られなかった。
いろいろ考えると眠れなくなって、なぜかミッキーが追っかけてくる夢を見て何度も目を覚ましてしまい。
で、もう、ミッキー、あの体で足が速い!
ドラム叩きながら、どんどん追いかけて来るわけで、
明け方になって、やっと熟睡できたけど。
音楽が、太鼓から急にラジオ体操に変わった。
「へ?」って目覚めると
スマホから、
🎵ちゃんちゃらちゃらちゃら、ちゃんちゃらちゃらちゃら
って、ラジオ体操の音楽が聞こえていた。
な、なんで? なんでラジオ体操が受信音になってる!
で、それ、オババでした。
「起きたか! 息子に受信音変更って言っときましたが、ちゃんと変更されてましたか」
い、意味がわからん。
スマホには『すまん』って夫のメモがはってありました。
確かに、今朝は疲れているだろうから、朝食はいらないって、起こさないで会社へ行ってくれた。そ、そっか、あの優しさにこんな伏兵が隠されていたのか・・・。
「ラジオ体操って、どうして」
「夏休みですからね。で、2度寝してる場合ですか」
いや、オタクのご家族のせいで体調が悪いです。
てか、もう、自分、どうしていいかわからないわけで。
叔父の味方すれば、オババが文句言うだろうし、
オババの味方すれば、叔父が困るだろうしで。
「早く、ドアを開けないと、近所の人が警察を呼ぶでしょう」
え?
慌てて、飛び起きて2階の窓を開けて玄関を見ました。
な、なんと、オババ、玄関で踊ってる? 踊り? いやいや、あれって、ラジオ体操?
どどどどどどど・・・
階段、駆け下りてドアを開けました。
「お義母さん!」
「アメリッシュ、おはよう。何時まで寝てっ」という言葉の途中で、私、オババの背中を押して、家のなかへ隔離。
「な、なにしてんですか?」
「天の岩戸をしらぬのか」
あ、あの、岩戸にこもったアマテラスを誘いだすという踊りの逸話、
まさか、それでラジオ体操してたというのか!
ないないない
それに、今日はオババに会いたくなかった。
今、一番会いたくないんですけど。
叔父といい、オババといい、キャパシティってか、私の容量、ぜったい超えてっから。画像なら重すぎてページひらけないから。
ともかく、私は・・・
家の前で、ラジオ体操する勇気もないし。
オーロラ見たいって、フェアバンクスまで雪のなか運転できないから。
てか、私の運転じゃ、生きて戻れないけど。
「ほら、朝ごはんも食べてないでしょ」って、デンてな具合に、手作りサンドイッチをテーブルの上に置きました。
賄賂だ。そうそうに賄賂がきたぁ〜〜!
勝手で、わがままで、自由人の叔父よ。
申し訳ないが、
転びます!
「それで?」
「むふゅぐゆって、だびゅうっで」
「ほら、コーヒー」
「・・・」
「それで」
「叔父、破産しました」
「ほう」
「離婚しないと、叔父の家、国に搾取(さくしゅ)されるようです」
「なるほど」
オババ、左側の口元をぐっとあげて、例のハリソン・フォード(通称ハリニヤ)で笑いました。
「あの男にしてはマヌケなことをしでかしたのか。破産ね」
「です」
「他には」
「司法書士が作成した、譲渡書を送るって言ってました」
「他には」
「ホーホーホー、ホーホケキョ」
「うぐいすのシーズンは終わった! ほら、オカラで作った手作りスイーツを付け加えよう」
「癌です」
オババ、一瞬、目を細めました。
しかし、何も言いません。
ただ、しばらく眉間を寄せて考えていました。
「病状は」
「ステージなんとかと」
「そのなんとかは幾つだ」
う〜〜ん、全部白状するしかないのか? てか、ここで黙る意味がある?
「2だったような」
「2、そうか」
「大丈夫でしょうか」
「あの男はなんと言っていた」
「予後はいいと。叔母さんに知られると悪化するとも」
「ま、そりゃそうだろう。いつまでたっても・・・」と言って、オババは言い淀んだ。
「アウトローな男だ」
叔父は確かにアウトローです。どこか人を食ったようなところがあり、人を惹きつける魅力を持っています。
ところで、米国に実在の犯罪者フォレスト・タッカーという人物がいて、暴力も拳銃も使わない非暴力主義を貫いた銀行強盗犯がいました。
彼の信条が
『楽に生きるより、楽しく生きる』
う〜〜ん、叔父は楽しく生きてるようです。楽ではなさそうですが。
この人物を描いた映画が『さらば愛しきアウトロー』。
老境のアウトローをロバート・レッドフォードが渋く演じます。
『さらば愛しきアウトロー』劇場公開中
ロバート・レッドフォードが引退に選んだ映画です。
20世紀後半、実在した犯罪者フォレスト・タッカーが題材。
暴力も拳銃も使わない非暴力主義を貫き、盗みに入るときもスマートで紳士的な銀行強盗をレッドフォードが、癒し系で演じます。
タッカーは米国では有名で、1980年代初頭から銀行強盗、逮捕、脱獄と3点セットで繰り替えしました。
「楽に生きるより、楽しく生きる」が信条の男です。
映画はレッドフォードの哀愁ある表情が深みを与えておる、んじゃないかとと、勝手に予告映像や写真なんかで想像してます。
原題は『The Old Man & the Gun』直訳すれば、『老人と銃』
ん?
この原題、ヘミングウェイの有名小説『老人と海(原題The Old Man and the Sea)』のオマージュ?
なぜ、邦題は『さらば愛しきアウトロー』なんだろう?
きっと、レッドフォード愛からつけた題名なんだね。
そういう意味では、この映画の日本版パンフレット、ツッコミどころ満載で。
『明日に向かって撃て』で実在の銀行強盗サンダンス・キッドで無名だったレッドフォードは一躍、スターにのし上がりました。
そして、引退映画が実在の銀行強盗タッカー。
だから『さらば愛しきアウトロー』ですか。
おまけにポスター「ポケットに銃を、唇に微笑みを、人生に愛を」ってキャッチコピー。
沢田研二さんのサムライって曲のオマージュ?
「片手にピストル、心に花束、唇に火の酒、背中に人生を、ああ〜〜」
老境であっても、日米のかっこいいお爺ちゃんたちです。