アメリッシュガーデン改

姑オババと私の物語をブログでつづり、ちいさなガーデンに・・・、な〜〜んて頑張ってます

【背信:中編】雑兵は転職しても道は同じ。織田信長、殺人事件の真相。NHK大河ドラマ『麒麟がくる』

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アメリッシュ渾身のイラスト画「雑兵」

 

雑兵の唄

 

あのな、これから語る話は、ここだけの話ってことな。

 

三郎のことについて語るつもりだけど、奴には内緒だよ。だって、あいつ神経がピリピリしててさ、そんなこと知れようもんなら即刻、首にされちまうし、そうなったら、俺の家族も困るしな。

ことによっちゃ、感情を爆発させて奴が心臓発作? 起こしちまったらまずいだろ。

 

あいつ、なんでも自分で決めなきゃ気のすまないタチだからさ、そこまでして働かなくてもって思うけどさ、性分ってことなんだろうな。だから、急に心臓とまっても、俺は驚かない。俺が奴だったら、とっくに倒れてるって話だ。

 

それによ、三郎って朝が弱いんだよ。

たいてい朝から昼頃までは機嫌が悪くて、午後3時くらいから元気になる。

だからな、朝に話しかけないほうがいいぞ。

 

ほら、いるだろ?

頭が回りすぎてさ、なんでも自分でやって、部下が同じようにできないとイラつく上司って、まさに三郎だよ。

あの男についていける奴なんてそうはいないぜ。

 

え? 俺が誰だって?

そんなこと話しても意味ないって。俺の父ちゃん、母ちゃんだって、そこらへんにいる普通の親だし、毎日、食うに精一杯の生活してる。それこそ苗字なんてねえよ。

 

父ちゃんは中村の竹と呼ばれている。村の名前が苗字みたいなもんでさ。ごくごく普通でいることで、いっぱいいっぱいの農民だよ。

 

三郎のことだったら教えてやるぜ。

なんせ小さい頃から遊び仲間だったし、やんちゃもした。

 

そんな関係で、今は中間の仕事をしてるんだ。

中間の仕事ってさ、下男と足軽の間の身分さ。これ、けっこうキツイぜ。

戦闘がはじまれば、馬を引いたり、三郎に武器を手渡したり、それに重い荷物を運んだりもするんだ。

 

でもよ、そのお陰で家族はけっこういい暮らしができてる。村に帰ると大変だぜ。こんな俺でも「出世頭だ、タケんちの坊はなかなかエラえ」って、父ちゃんは鼻が高いってもんだ。

 

ああ、そうか、三郎が誰かって。

 

世間じゃ天下人って呼ばれてる、ほら、あの男だよ。

そう言えば知ってるだろう?

 

そうさ、織田信長だよ。

昔は三郎って呼んでたんだよ、だから、今でも心ん中じゃ、俺にとっちゃ三郎だ。

 

俺は昔から、ヌケサクのヒデって呼ばれている。

今は三郎の近くで、といっても縁側の下の地べただけどな。そこで待ってて、指示があったら馬を引いたり荷物運んだりの仕事に精出してる。

これでも真面目なんだぜ。

 

同じ仕事をしていた藤吉郎は、今じゃ一国持ちに出世して羽柴秀吉という、どえりゃあ偉い人になってる。

昔からハシこいやつでさ。

俺なんかが気づかないことまで気づいて、すぐ行動するやつだった。

 

頭も数倍まわるし、それで愛嬌があってな。昔は「兄貴、兄貴」って俺のこと慕ってたけど、もう今じゃ口もきけねぇ。

 

藤吉郎は中間の仕事してても、働き方改革を自分で工夫していたな。

難しい言葉知ってるだろ。これも藤吉郎、あ、羽柴さまだよな。

あいつが、そんなことを言ってたよ。他人と一緒のことしてたら、誰も認めてくれないってな。

 

うらやましいかって?

ねぇよ。

 

人には分ってもんがある。よく父ちゃんが言っていた。

そういう意味じゃ、俺、分相応以上の仕事をしてる。

なんせ、三郎、今じゃ天下人だぜ。

その中間なんざ、村じゃ偉い出世よ。

 

俺、三郎のことは小さいころから知ってるからな。

なんのかんのって言っても、三郎のことが好きなんだ。

 

それに可哀想な奴だ・・・、おっと、天下人を可哀想なんて言っちまった。

 

だってよ。三郎って若い時から裏切られてばっかでよ。信じちゃ裏切られ、信じちゃ裏切られって、よほど前世で悪いことしたんだぜ。

じゃなきゃ、理屈があわねぇ。

 

三郎に、そう聞いたことがあった。

すると、奴、あの細い顔で唇をゆがめて「ふん」って言いやがった。

「違うのか」

「ヒデ、世の中に神も仏もいねぇ」

「おまえ、いつかバチが当たるぞ」

「当たろうが、やるべきことをやるだけだ」

 

俺、ちょっと怖かった。

だってな、三郎にバチが当たったら、俺っちにも来るだろう。こんなに近くで中間の仕事してんだ。

だから怖かったんだよ。

するとな、その夜は珍しく、奴、饒舌でな。

 

「怖いのか」って聞きやがった。

「怖いよ」

そしたら、ふっと笑って。

「お前は、いい奴だよ、本当にいい奴だ」

 

意味がわからねぇ。

だが、ま、そういうことだ。あいつは、あんまり無駄話をしたがらないタチなんだよ。

 

背信の人生

 

最初は、あのジジイだったな。父親代わりの真面目な平手ジジイが自害してよ。三郎、あれは堪えたようだ。すげえ泣いてた。

それまでは、ヤクザな格好して俺らと好き勝手やっていたのを、あれから止めた。あれが原因さ。でもよ、勝手に自害するなんて、裏切りのひとつだろ? 三郎にとっちゃ。

 

あの頃までは楽しかったんだ。若かったしなぁ。

「おう、ヒデ。行くぞ」って三郎が声かけてきて、みんなで悪さして、走って、笑った。三郎といると女にモテるしさ。

なんたって、織田家の若様だもんな。

 

そうだよ、断然、楽しかったんだよな・・・

 

平手ジジイの次が弟さね。

信じられねぇけどな。自分の弟に裏切られるなんてよ。あいつ、あれで情が深くて、それで最初は許したよ。けど2度目はなかった。

 

弟の次は浅井長政ってやつに裏切られた。

 

三郎の妹って知ってるか?

そりゃ、まぶしくて天女みたいな、いい女だよ。

俺なんかが、まともに見れるような女じゃない。三郎のやつ、その妹が大好きだったけどな、その男にやったんだよ。政略結婚ってやつさ。

 

その大事な妹を嫁にやっても浅井は裏切ったんだ。

朝倉との戦いで背後から浅井に攻められて、

「退却だ!」って叫んだとき、俺も馬の隣を並走しながら叫んでいたよ。

「逃げろ! 逃げろ!」ってな。

 

泥んなか、必死で三郎の背後から走った。ぜってい死ぬもんかってな、それほどギリギリの戦いで危なかった。

 

そして、こっからが今の話さ。

足利義昭って将軍に裏切られたんだよ。

 

義昭って京都まで連れてきてやった奴だぜ。

他のどこの大名もできなかったことをやり遂げて、城まで作ったのにさ、裏切るって、それ、アリか?

将軍、誰のおかげでそうなれたって俺なんかだと思うんだけどよ。殿上人の考えることは俺らにゃあ、わからんて。

 

三郎って男はな、潔いっていうか。

「是非に及ばず」で終わらせる。

言うことはないってことだ。

 

将軍を京都から追放すると、あの野郎、あちこちの大名に織田信長を殺せって手紙を書いた。

それで、なんのこっちゃない、和議を結んだ浅井長政と戦うことになったんで、そりゃさ、三郎が悪いんじゃないぜ。

 

これは俺の意見だけどよ。三郎ってやつは、昔からイラチだけど悪いやつじゃない。それだけは、俺、母ちゃんのへその緒に誓って言える。

あいつは悪いやつじゃないんだ。

ただな、言葉が足りないってことはあるよ。昔っからだ。

すぐ感情的に怒鳴るしな。どう考えたって悪い癖だけどな。

 

このいやったらしい時代で、がんばっていい時代にしようって、本気で思ってるバカなんだ。誰もできないことすりゃ、そりゃ、多少は無茶なこともする。

仕方ないだろ?

 

でよ、これが三郎の最大危機になっちまった。

例の浅井・朝倉連合軍に勝ちはしたよ。

俗にいう、姉川の戦いさ。

 

勝つことは勝ったけどさ。

どの国にも三郎が怖いって思っちまった。

俺たちが若いころなら簡単だったさ。

 

「おう、三郎、腹減ったし喧嘩はやめようぜ」

「ああ、ヒデ。腹減ったな」

 

それで終わった。

けどよ、大人の世界はそれじゃあすまない。

 

三郎に怯えた奴らが、あちこちで立ち上がった。同盟っちゃ徳川軍だけさ。

だからよ、三郎のやつ、朝が弱いくせに無理して四六時中、戦いに戦い抜いた。それから、比叡山延暦寺を焼いちまったりもしてな。

 

明智光秀という男が、えりゃあ有能だったとよ、奴の手腕で延暦寺の事後処理したって、聞いた話だけどな。

 

俺もほとんど寝てねぇ。

信長の槍を担いで、走り回ったさ。

 

だからさ、つい、戦闘中に転んじまってもアホだと思わんでくれ。完全に失敗だったんだよ。

暑い夏の終わりの日だったしな。

息も切れて、それで、ふと立ち止まった瞬間に、つまづいて転んで、そいで起き上がったんだ。

そうしたら、ヒュンって音がして。

 

「三郎!」

 

矢がまっすぐに三郎めがけて飛んでいた。

俺よ、平凡な奴だしよ、そんなことするなんて思ってもなかったんだが、とっさだったんだよ。

なんでだろうな、矢の前に立っちまった。

なんだか、思ったんだよ、たぶん死なないって、当たるはずがないって。

 

「ヒデ!」

 

三郎が馬上からな、汗まみれの顔でこっちをにらんだよ。

あいつ、いつも先頭たって走るから、大将のくせによ、それ、若い頃から変わんなくてよ。危なっかしくってよ。

 

でよ、気づいたら矢が当たっていた。

急所に入ったって、こんだけ戦いに出てりゃあわかるよ。

こりゃ、急所だってな。

 

不思議なんだか、痛くねえ。

ぼうっとして目を開けたら、空が見えた。

カンカン照りの暑い日だった。

 

「ヒデ!」

 

ああ、三郎が叫んでる。でも、これでいいんだ。

俺よ、死ぬ気なんて全くないけどよ、でもよ・・・

戦で死んだら、俺の家族に禄がいく。

禄って財産だ。三郎はそういうとこ律儀な男なんだよ。

 

だから、俺、笑って死ねる。

ただちょっとな。ここが尾張じゃないことが残念なんだよ。

母ちゃんや父ちゃんより先に逝くって、そんな珍しいことでもないけどな。

 

けどよ、それにしても空は青いな。こんなに空って綺麗だったんか?

 

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姉川の戦い:空と太陽


―――――つづく

 

*内容には事実を元にしたフィクションが含まれています。

*登場人物の年齢については不詳なことが多く、一般的に流通している年齢を書いています。

*歴史的内容については、一応、持っている資料などで確認していますが、間違っていましたらごめんなさい。

参考資料:#『信長公記太田牛一著#『日本史』ルイス・フロイス著#『惟任退治記』大村由己著#『軍事の日本史』本郷和人著#『黄金の日本史』加藤廣著#『日本史のツボ』本郷和人著#『歴史の見かた』和歌森太郎著#『村上海賊の娘』和田竜著#『信長』坂口安吾著#『日本の歴史』杉山博著ほか多数

 

NHK大河ドラマ麒麟がくる

2020年1月〜

明智光秀の謎の前半生を描く大河ドラマ

 

明智光秀役:長谷川博己
妻の煕子役:木村文乃

織田信長役:染谷将太

信長妻帰蝶沢尻エリカ
羽柴秀吉役:佐々木蔵之介

徳川家康役:風間俊介

足利義昭役:滝藤賢一
細川藤孝役:眞島秀和

斎藤道三役:本木雅弘

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