【ホラー小説】今日は優しく穏やかな一日。トルネコと少年と少女と・・・
おひさしぶりです、アメリッシュです。
ちょっとの間、ブログから離れていた。離れていたら、そのまま消てしまいそうになって、それは、ちょっとだけ悲しいって思った。
そう思ったら、矢も盾もたまらず書きはじめていた。
そんな自分、けっこう愛おしいから、
それで良いんだ、なんて思ったわけ。
誰もが、そう自分のことを思えれば、嫉みなんて減るかもしれない。
だって、
私たちって、けっこういい人だと思う。
たぶん、そう・・・
けっこう、みんないい人なんだ。
今日は、昨日の激しい雨が通り過ぎ、穏やかな一日で、
通り抜けていく風も優しい。
昨日、私は夕刻から買い物に出かけた。
新型コロナウィルスの蔓延から買い物時間を変えていて、
夕刻はスーパーの人も少ないから。
でも雨混じりの風が思いのほか強い日だった。
あまりに風が強くて吹き飛ばされそうになってびっくりした。
なんとか無事に家にたどり着いたときは、やつれた冒険者みたいで・・・
大きな荷物を背負ったトルネコみたい。
玄関先で鏡に映った自分の姿をみて爆笑していた。
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それも疲れはてたトルネコ。
毛は逆立ち、荷物が多かったので傘をさせなかったために、
雨に濡れた服が身体にまといついて。
埃にまみれ濡れそぼったトルネコだ。
今日は昨日の荒天が嘘のように穏やかな日になった。
なぜか、こういう穏やかな天候が少なくなった気がする。
昔は、もっと穏やかな日が多かったように思える。
穏やかで、ずっと優しかったような気がする。
そんなことを考えながら、このブログを書いてて。
昼下がり、パソコン前の窓を開けていると、近所の人の声が聞こえてきた。
今日は少しとんがった声が聞こえる。
その声は興奮したようにも、怒ったようにも感じる声で、
それは母親のようだけど、実際は怒っているんじゃない。ただ、小さな子にお母さんが注意しているだけなんだ。
「ほら、もういい加減にしなさい。遊んでないで、手伝って!」
「ふふふ」
「だってね」
「ねぇ〜〜」
声は風にのって飛んでくる。
でも、この周囲に小さな子なんていたんだろうか?
近所の子どもたちは、いつの間にか大きくなって、いつのまにかちょっと大人顔をして歩くようになっている。
周囲の家に小さな子はいない・・・、と思う。
不思議に思って、ちょっとした気まぐれから外に出ると、
ふいに子どもたちが、こちらに向かって走ってきた。
少年と少女のふたり連れは双子のように似ていた。
彼らは前方から駆けてきて、風を起こして通り抜ける。
少女が叫ぶ!
「こっち、こっち」
小さな身体で少年は、少女のあとをおぼつかない足取りで後を追う。
「待って、待ってよ!」
風を追って疾走する姿は不思議なほど現実味がない・・・
子どもたちは昭和初期のような、珍しい格好をしていたからだ。
おかっぱ頭の女の子に、刈り上げた髪型の男の子。
いまどき、風流な、いっそ新鮮に感じる姿形で、私は思わず微笑みをうかべた。
黄色いチェックのちんちくりんのシャツにヒダスカートをはいた少女と、
少し大きめのダブダブのズボンをはいた少年。
いくつくらいだろうか。まだ、学校へ上がる前にちがいない。
ふたりは大声で笑い、それから、こちらをチラっと見た。
はじめてこちらを振り向いた顔は、どこかで見たようななつかしさを感じた。
どこかできっと会っている。
それも家の近くじゃない、ずっと遠くのどこかで。
彼らはやせ細っていた。
満足に食事をしていないのだろうか。
それでも、笑いながら駆けていく。
と、空で轟音が満ち、低空飛行する飛行機が高度を下げた。
防空サイレンが鳴り響いている。
「戻ってらっしゃい!」
母親が悲痛な声で叫ぶ。
その声に、少女は立ち止まり、少年は聞こうとしなかった。
姉を追い越した少年は得意げに背後を振り返った。
爆音がした。
少年のいた位置に火柱が立ち、そして、少女の顔が硬直した。
彼女の先には真っ黒に焦げた穴しか残っていない。
少年は消えた。
少女は一瞬で大人の顔になり、私を見た。
一陣の風が吹き抜け・・・
少女の姿は風にゆらぎ、それから、すぅっと消えた。
後には風の音しか聞こえてこない、
美しい、初夏の香りが樹木から漂い、かたわらを過ぎて、去っていく。
・・・今日は沖縄戦から75年「慰霊の日」