アメリッシュガーデン改

姑オババと親戚の物語をブログで綴っております・・・ブログ界のちいさなディズニーランドを目指しています

【著名作家パロディ】太宰治『人間失格』からの『患者失格』/ 劇場版アニメ映画『HUMAN LOST 人間失格』に捧ぐ

毒親からの結婚シリーズは、明日、また公開します、すみません。今回のブログは、私の日常の出来事を、尊敬を込めて、『人間失格』から太宰治風にしたパロディ作品です 】

 

患者失格

 

私は笑顔を浮かべていました。その顔を見みて、

 

「かわいい人ですね」

 

と、いい加減なお世辞を言っても、まんざら空お世辞には聞こえないくらいの、いわば通俗の「かわいらしさ」みたいな影も、私の笑顔にないわけではないのですが。

 

まったく、私の笑顔には、よく見れば見るほど、何ともしれず、イヤな薄気味悪いものが感ぜられました。

 

どだい、それは笑顔ではありません。

 

私は少しも笑ってはいないのです。その証拠には、私は、両方のこぶしを固く握って座っています。

 

人間は拳を固く握りながら笑えるものではないのであります。

猿です。猿の笑顔です。ただ、顔に醜いシワをよせているだけなのであります。

 

「じゃあ、お口を開けていただきますか」

 

年老いた歯科医が柔らかい声で言いました。

 

私の歯科医への恐怖は、それは以前に勝るとも劣らぬくらいはげしく胸の奥で蠕動(ぜんどう)していましたが、しかし、演技としての態度は、実にのびのびとしていて、もはや、自分の恐怖を完全に隠蔽し得たのではあるまいか、とさえ思っておりました。

 

「じゃあ、お口を」

 

歯科医は、曖昧な微笑を口元に浮かべながら、一向に口を開けない私を持て余すかのように、あるいは、こうしたことは日常かのように、麻酔注射器を手に待っております。

 

「怖くはありませんよ」

 

その言葉を聞いて、私は震撼(しんかん)しました。

よもや歯科医が怖いなどと、人もあろうに、その歯科医自身に見破られようとは全く思いもかけないことだったからです。

 

私の世界は一瞬にして地獄の業火(ごうか)に包まれて燃え上がるのを眼前で見るような心地がして、わあっ! と叫んで発狂しそうな気配を必死の力で抑えました。

 

生真面目に告白すれば、歯科医の言葉に私は不安でたまりませんでした。

 

ふっと思わず重苦しいため息がもれ、何をしたって、結局、歯科医の思うとおりになると思うと、額にじっとりと油汗がわいてきて、狂人みたいに妙な目つきで歯科医をにらんでいたのです。

 

私は俗にいう「わがままもの」なのか、またはその反対に、気が弱すぎるのか。自分でも訳がわからないのですが、ともかく、口を開けることができず、罪悪のかたまりと化していたのです。

 

歯科医は目を見張っています。

 

驚愕の色も嫌悪の色もなく、ほとんど救いを求めるような、慕うような色があらわれ。

ああ、この人もきっと不幸な人なのだ。不幸な人は、ひとの不幸に敏感なものなのだと思ったとき、私は観念して、口を開きました。

 

「じゃあ、少し痛みますからね」

 

その痛みは想像以上でした。あながち、私の恐怖は間違ってはいなかったのです。

 

歯科医は容赦ありません。

柔らかな態度は、内にトラを隠した猫だったのです。

 

麻酔がきいた頃合いに、歯科医は異様に頑丈そうで、太い先端を持ったペンチを取りあげました。心なしか微笑みさえ浮かべ、私の口に向かって入ろうとしています。

 

地獄。

 

この地獄から逃れる最後の手段、これが失敗したら、あとはもうない、という神の存在をかけるほどの決意をもって、私は、歯科医に向かって、自分の気持ち、いっさいを訴えました。

 

「先生、もう少しだけ、もう少しだけ。気持ちが、歯を抜くための覚悟のために、猶予をお願いできませんでしょうか」

 

「猶予と申しましても、待ちすぎて、逆に麻酔が切れでもしたら、薬の量が増えるばかりで、よいことはありませんよ」

 

「そこをなんとかごまかして、頼みます、先生。キスしてあげます」

 

歯科医は顔を赤らめ、それから、怒ったような表情を浮かべました。

 

「いいですか。待っても同じことです。さあ、もう一度、大きくお口を開けてください」

 

死にたい、いっそ、死にたい。死ななければならない。生きているのが罪の種なのだ、などと思いつめても、歯科医は容赦ありません。

 

大きなペンチ状の器具を掴むとまるで運命のように、向かって来ます。

 

神に問う。信頼とはなんぞや。

このような状況で、歯科医を信じられるほど、私は恥の多い人生を送ってきたのであろうか。

 

先生、助けてくれえ、と叫びそうになりました。

 

私は死ぬのは平気なんだけど、痛みや、まして出血するなど、まっぴらごめんのほうですので、先生に向かって、ひたすら、痛い、痛いと訴えました。

 

神に問う。抵抗は罪なりや?

 

判断も抵抗もわすれて、歯科医のするがまま、私は歯を、ほとんど残骸になっていた親知らずを抜かれようとしています。

 

痛みは、もう筆舌に尽し難く、私はついに最後の抵抗を試みました。

あまりの呻き声に、歯科医は、

 

「もう少しですから、隣の小学生の坊やでも耐えられたんです、がんばってください。もう少しです」

 

私は、歯科医の腕を持って、やめさせようとしました。

 

「危険です。手を離して」

 

相手の心にも自分の心にも、永遠の修繕し得ない白々しいひび割れができるような、そんな恐怖に、私はおびやかされていました。

 

この歯科医も、隣で治療後の小学生も幸福なんだ。

私は座席から立ち上がり合掌したい気持ちでした。そうでしか、この苦難から逃げることができない、そんな追い詰められた気持ちでした。

 

その時、自分を襲った感情は、怒りでもなく、嫌悪でもなく、また、悲しみでもなく、純粋な痛みに対する恐怖でした。

 

涙目になりながらイヤイヤをする、その姿は、もはや完全に、人間ではなくなっていたのです。

 

歯科医にとって、これほどの抵抗を試みた患者はなく、私は狂人の烙印を押されました。ついには狂人となりました。

 

「ああ、死ぬかと思った」

 

すべてが終わったとき、私の口から思わず言葉が漏れていました。

 

そして、いまの自分には、幸福も不幸もありません。

 

ただ、いっさいは過ぎていきます。

 

私が阿鼻叫喚(あびきょうかん)で行った歯科医は、いわゆる「人間」が行くところであり、私のようなものがいくところではなかったのです。

 

その歯科医の1日で、私の髪には白いものがめっきり増えました。

家族から、急に10歳は老けたと言われております。

 

患者失格

 

それが、私に下された神からの罰なのです。

 

追伸:太宰治ファンの皆様。不快な感情、および失礼がございましたら、お許しください。私も1太宰ファンとして、長年、彼の小説および彼について書かれた評論等、すべて読んで参ったファンです。どうぞ、ご寛大なお心でお許しくださいませ。

 

 ⭐️    ⭐️    ⭐️

 

今回のブログは以前、公開しました歯医者で親知らずを抜いたときのパロディです。以前の記事にご興味のあります方は、こちらからどうぞ。

 

funyada.hatenablog.com

 

 

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劇場版アニメ『HUMAN LOST 人間失格

 

太宰治人間失格』をリメイクした劇場版アニメーション。

2019年9月劇場公開予定です。

 

このアニメは、太宰治人間失格』を大胆にアレンジした作品で、舞台は、人間が死を克服した昭和111年の東京です。

 

ネットワークS.H.E.L.L.という訳のわからない未来の技術で、長寿を実現した時代、人間は120歳までの寿命を保証されています。

 

太宰治人間失格』の主人公大庭葉藏は、ヒューマンロスト化した異形体に会い、不思議な力をもった少女に助けられます。

 

いつしか、葉藏も人とは違う能力を持つにいたり、異形体との戦いに向かっていくという、お話です。

 

PSYCHO-PASS サイコパス』の本広克行氏がスーパーバイザー

『アフロサイムライ』の木崎文智氏が監督です。

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