《オババ》私の姑、人類最強のディズニーオタク。
《叔母》おとなしいが実はヒステリー性障害を患う。娘を溺愛し結婚に反対するオババの妹。
《優ちゃん》叔母のひとり娘。39歳。婚活アプリで知り合った太郎と熱愛中。
《太郎》35歳。高校時代に親を亡くし、一人で農家を切り盛する中卒の勤労青年。
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私ね、チョイ役としてなら、けっこうイケると思う。
そこんとこは、ちょっとばかり自信を持ってる。なにせ幼稚園からのチョイ役としての来歴、かなり堂にいってますから。
そんじょそこらの主役を張る子たちには負けない。
おそらく幼稚園で桃太郎をしたって、高校まで桃太郎ができる子は少ない。その辺りに関しては、ずっとチョイ役。
安定の端役人生。
引き立て役としての自分の実力はかなりのもんであって、
例えば、幼稚園お遊戯会では『木』を立派に演じ。桃太郎の活躍を背後から支えた。
「うん、木として、ともかく、木になっていた。動かずにがんばった」と、父母がほめていた。
小学校などの演奏会でも、一番多くの生徒が演奏するピアニカ専門だった。
「うん。大勢のなかで外れた音が聞こえなかった。よくがんばった」と、父母がほめていた。
中学校ではテニス部という花形クラブに所属して、ボール拾いに徹した。テニス大会ではボール拾いのプロとして根性でがんばった。
「うん、アメリッシュが拾うの、一番、早かったと思う。頑張ったな」と、父母がほめていた。
高校の文化祭では、なぜかクラス演劇の台本を任された。
タイトルは『ロミオとジュリエットが、魔法でジジとババ』ってのを書き、爺ロミオがバルコニーに登れず悲恋になるというシェークスピア悲劇も真っ青の舞台で盛り上げた。
「うん、ずいぶんと面白かったよ、頑張ったな」と、父母がほめていた。
ああ、父さん、母さん!
今ならわかる。大切に育ててくれた結果、あなたたちの方向性ときっと違ったふうに育っていたと思う。
それなのに、随分と長く「この子はきっと大器晩成だから」と信じ、そして、その晩成を見ずに、ちょっと早めに天国に逝っちまったね。
まだ、私を褒めてくれるかい?
なら、ブログを書き始めたから、天国で笑っとくれ。
それから、大器晩成、まだだから。あんまりに待ちすぎて、すでに発酵しちまってるけど。
そう、私は筋金入りの端役であり、大器晩成をまだ待つ身。
だからね、当事者というのかな、いきなり表舞台に立つとか。主役とか向かない。たぶんそういうの向いてない。
しかるに、太郎くんに畑で会い、そのまま風が吹く丘で話すという、主役級の役柄。もう後がないと火事場の馬鹿力で頑張っている。今こその大器晩成をなしてみるってな鼻息でがんばっている。
父さん、母さんなら、とりあえずほめてくれる。それは知っているけど、心の奥の、かすかなため息も今では聞こえる年齢になった。
自分の子どもを持つということは、そういうことだね。
うちの子、でも素晴らしい、素晴らしい孫がいるよ、もう見せてあげられないけど。心からそう思っているよ、そして、父さんと母さん、きっと、あなたたちなら言うね。なんて素晴らしい孫なんだって。
ところで、太郎君に案内され、樹木の下に置かれた簡易椅子に座った。
「農作業の合間に休憩するとこで、汚いっすけど」
と、言ってから太郎くんの顔が一瞬、暗くなりました。
「いえ、こちらこそ突然、お伺いして」
「いや、大丈夫です。わかってますから」
「そうなんですか?」
「わざわざ、こんなところまで来てもらって、俺、なんか恐縮しています。大丈夫ですから」
そうか、大丈夫なんだ。
でも私、なにが大丈夫なんだか、ちっとも理解できてない。
ともかく、3つの願いを聞くことから・・・
「優ちゃんは、どんな様子ですか?」と、太郎くんが先に言った。
「優ちゃん? 話してないんですか」
「あの入院後から、連絡が取れなくなっていて、スマホも使われていませんって案内がはいるし」
叔母さん、さては強硬手段にでよったか。さすがオババの妹、手強い!
「俺、大丈夫です。今日、わざわざ断りに来られたんですよね」
な、なんという誤解。完璧に終わる方向にいっています。
娘をカゴに取り込んだね叔母さん。
こういう母親もいるって驚きですが、それは仕方ない。
アメリッシュ、行きます!
「太郎くんは優ちゃんとの、結婚、どう思っていますか」
「僕は優ちゃんと結婚できるなら、なんでもしたい」
「その言葉が聞きたかった。わかりました。ほかに願いは」
「他の願い」
「あと二つ」
「あと二つ?」
って、なんでアラジンのジーニーにここで拘る。ま、いっか。
オババからの言いつけであるし、それに叔母のことを一番理解しているのは姉であるオババだろうから。
「優ちゃんと話したいかな、気持ちを聞きたい」
「それから」
「もう一度、ディズニーランド、今度はシーに行ってみたいです。優ちゃんと」
「わかりました。ご連絡します。それから、優ちゃんもあなたと結婚したいと思っています」
「ほ、ほんとっすか」
太郎くん、思わず椅子から飛びあがり、そして照れたように頭をかいた。
「本当よ、今日はそれを伝えてにきたの」
「ありがとうございます!」
彼、深々と頭を下げた。
そのとき、さらに強い風が吹き、彼の頭に木の葉がのって、それから地面に落ちた。
オババよ、これは難題ぞ。
母親から娘を引き剥がすって大変だ。
39年間、ずっと娘を囲っていた母なんだから。
それこそ難攻不落の刑務所から引きずりだすようなもので、
それは、肉体的に救出するというより、精神的に救出しなきゃなんないってことだから。
パピヨンの不屈の精神が必要だってな場面
ところで、映画『パピヨン』、45年ぶりにリメイクするらしいけど。
旧作、いい映画でした。
最後、脱獄する場面、もうすっかり老けたパピヨン(スティーブ・マックイーン)を崖の上から見送るダスティン・ホフマンの表情。
名優です。
リメイク版『パピヨン』
あの演技を超えられたら、それはもう奇跡かもしれない。
パピヨンのテーマ音楽も名曲中の名曲だったなぁ。
「やろうども、俺はまだ生きている」
って、私も言わせてみっから! 優ちゃんに。