ラベンダーに憧れて
「そなた。いったい何をしておるのだ!」
「師匠! 師匠なのですか。もう見限られたと更新もままならず、大泣きしておりました」
「大泣き? それでまさか、『SNSの危険』という記事をブログにあげたのか。一体、どこでどう間違え、そのような方向へ走った」
「いえ、師匠のお怒りが解けぬことにはブログネタもなく、致し方のう・・・」
「まあ、窮状は察している」
「さすが、師匠でございます」
「ブロガー心得その1!」
「し、師匠! 庭だけでなくブロガーの心得まで体得なれているとは、感服申し上げます。で、心得その1とは」
しばし、沈黙。さらに長い長―――い沈黙。さては今頃、必死になってネットサーフィンで情報を掻き集めているのか。Yよ、長いつきあいじゃ。そのぐらいお察しよ。たとえライン歴が私より長くともな。SNSがソーシャルネットワークサービスの略だと、前回の記事で知った私と、どっこいどっこい。こういうとき、年齢を共に重ねてきた戦友に、そこはかとない共感を感じてしまう・・・。
「ラベンダーはどうした」
おっ、話題を変えたか。
「ラベンダーでございますか」
「先ほど、そなたが公にしたラベンダーとシロタエギクの『ガチンコ勝負』を見に行った」
「は、はあ・・・」
「ラベンダーの種類だが。最初はデンタータ種と書いておったが、いつのまにか種類が代わり『花うさぎとパープルウイング種』に変更されている」
ま、まずい。こっそりと書き換えたのだが、もうバレちまった。そうなんです。ごめんなさい。シロタエギクと戦っていたのはデンタータではなく、花うさぎとパープルウイング種でした。こっそり訂正したつもりが。さすがに目ざとい、侮れない友です。
「まあ、それは置いておくとして・・・、そもそも、ラベンダー好きで、庭のテーマカラーをブルー系にしたのであろうが。確か、時間移動をするためとか、なんとか、奇妙な戯言を吐いてな」
SF小説『時をかける少女』を読んだのは、遠い遠い遠い昔です。
幼い私はラベンダーの香りで時間移動できると信じ込みました。サンタクロースより長く信じていたにもかかわらず、ラベンダー自体を知らず、その花を想像だけで膨らませていたものです。
その後、図鑑を見て、想像とはまったく違う花であることに驚きました! バラのように華やかで、桜のように儚く、そんなイメージを持っていた私にとって、そのゴツゴツした姿は予想外でした。実はラベンダー、樹木に分類され草花ではなかったのです。
「そのラベンダーですが、奇妙なことが起きております」
「私が推薦したデンタータ種のことであろうか」
「さすが、師匠。打てば響く話の早さ」
「伸びすぎて手に負えぬようになったか」
「師匠のおすすめで、昨年の4月。デンタータ系ラベンダーを大きめの鉢に植えました」
「なるほど」
「そして、師匠のおすすめでないイングリッシュラベンダー、レース系でございますが、5月に手をだしてしまい、やはり鉢に植えました」
「そうか、無駄なことをしたな。イングリッシュ系は湿気に弱く夏にも弱い」
「はっ! そう聞き及んでおります」
「それで」
「そ、それが、誠に申しにくい状況でございまして」
「申せ」
「し、しかし」
「苦しゅうない」
「はっ。ですが、恐れ多くも、師匠に対して、このような結末をお知らせすることになるとは、恐縮至極でございます」
「言うてみぃ、私は心の広い人間だ」
「では、お言葉に甘えて。デンタータ系ラベンダー、枯れました」
「な、な、なんと、あれほど楽なラベンダーを枯らしたか」
「申し訳ございません」
「では、レースラベンダーは聞くまでもない」
「生きております」
ガチャン。切りおった。