冬は庭が寂しくなる一方。いっそ雪が降り、あたり一面雪景色になれば美しいでしょうが。(豪雪地帯の方からみれば、申し訳ないのですが)今年は暖冬で、雪が積もることもなく、そして、日々、枯れていく薄ら寒い庭を、なすすべもなく見守るだけでした。
と、困ったときの知恵袋、またまたの悪友Y。
「冬でも、こんもりと鉢の上で美しく咲き誇り、手間なし! 水やりなし! で、想像以上の出来栄えに育つ、そんな花を知らんかえ。条件はまだまだあるぞ。真冬を超えることも厭わず、ほっておいても雑草のように丈夫で、その上に色彩が多く美しい花じゃ」
「な、なによ、その身勝手てんこ盛りの欲求は」
「そこで驚いては、私のことをまだまだ知らぬな。チッ、チッ、チッ、いったい何世紀のつきあいだ」
「何世紀って、どんだけ生きてんの」
「おや、ヴァンパイアではなかったのか」
「ヴァンパイアじゃない、美魔女とお呼び!」
ものを頼む立場上、ここは折れねばならぬか。鼻をフンと鳴らし、声のトーンをさらにあげた。
「もう一声、安いは必須じゃ」
「世の中に、そんな甘く都合のよい花が・・・、まあ、あることはある」
「あるのか」
「ある」
「なら、はよう」
「ビオラ、一択!」
という訳で、今年の1月頃、意気揚々とスーパーマーケットの横にある園芸店に走ったのです。例の無愛想なオヤジがアルバイトのお兄ちゃんとやっている店です。
「ビオラ、15ポット!」
「おうよ」
まるで魚河岸のオヤジに声をかけるように叫ぶと、アルバイトのお兄ちゃんが、威勢良く答えてくれました。
「で、どの色のビオラを」
「色・・・。色は、難しい、ちょ、ちょっと待ってくださいましな」
急に声のトーンが下がりました。園芸店で花開く多彩なビオラ、本当にさまざまな色で咲き誇っていたのです。天鵞絨のような花びらから単色まで、ようもまあ、これほど開発されていたものであります。世の動きが早すぎて、年齢とともに自分の許容範囲を超えることがあります。そんな時は必ず目眩を起こし、数秒間、前後不覚に陥ります。つまり理性を失なった挙句、あらゆる色を取り寄せようとして、そこで、ハッと気づきました。
『シンプルさはすべてのエレガンスの鍵』というシャネルの名言が天啓のように頭に響いたのです。
色に迷ったら、2色までにしろというシンプル規則。ファッションにしろ、インテリアにしろ、無難ではありますが失敗はない。
「お兄さん、青系、2色で」
「まいど」
「パークチップと腐葉土を入れておくと長持ちする」というYの忠告に「パークチップてなに?」
「そんぐらい、自分で調べよ。この愚か者が」
なんと冷たい。そんな友を見返すため自ら調べ、忠告通りに植えてみました。やればできるな。
あの日から2ヶ月。ビオラの鉢はてんこ盛りに咲き誇っています。